「消えず、見えず、インクの、旅の人、ですね」
話し方と同じく、物腰もやわらかな人だった。
「ここは、これまで転移してきた、どこよりも、不思議なところです」
真似してゆっくり話そうとするが、興奮と混乱と、そしてやっと人に会えた安堵で、思うほどはゆっくり話せない。
「そうでしょう、そうでしょう。私の、家に、いらっしゃい。鳥さんも、一緒に」
青い鳥を抱きかかえ、ゆっくりの人に付いていく。歩くのも、ゆっくりだった。
太陽も月もあんなに速いのに、人はこんなにゆっくりなのか。
ゆっくりの人の家は、地下にあった。
その入り口は、島を一周しただけでは気が付かない、小さな穴だった。
地下の通路の向こうに、立派な扉があった。
扉の向こうは、広々とした家だった。すべてが整えられ、きちんとして、穏やかだった。
「この、島は、どうなっているんで、すか?」