あんなに苦労した空中歩行が、難無くできるようになったのは、動揺しているせいだろう。
身体が熱く、思考も気持ちもまとまらず、すたすたと浮いて歩く。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
赤い鳥が肩にしがみついているのがわかる。振り落とされまいと必死なほど、速く歩いているということか。しかし、歩調を緩めることが出来ない。こんな調子では、声を掛けてくれる人は現れないだろう。早く、この街を離れたいのに。
只管に歩いていたら、街の外れまで来てしまったようだった。急に大きな建物はなくなり、さらに進むと、砂漠になった。
深く軽い砂を踏む感触。もう、浮いて歩かなくてもよくなったのだ。あの街を抜けたのだと知った。
だが、浮いて歩くのに慣れ掛けた足は、初めて歩く砂漠に混乱していた。アスファルトや石畳に慣れた足には、砂漠も矢張り未知の歩行なのだった。おかげで、やっと歩を止めることができた。
人語で叫び続けていた赤い鳥は、鳥の鳴き声になった。
目の前に、真っ青な鳥が、現れた。空と同じ色の鳥だった。