「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者が、嗅覚の休憩を所望する!」
「青い花が喋った」「いや、あれは花ではないのだ」「花ではなければなんなのだ」「植物じゃない生き物」「そんなものがこの世にいるのか」「バケモノだ」「病原体だ」
ちょっと待て。街の皆が、お前に驚いている。
青い鳥にそう囁いたが、聞かなかった。
「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者が、嗅覚の休憩を所望する!」
ついに人々は叫び声をあげて、方々へ走って逃げていってしまった。
また独りになった。
おかげで、周囲に漂う匂いも弱くなり「嗅覚の休憩」になった。そんなつもりはなかったのだが。
転移すれば、余所者扱いされるのは当然だ。旅をすることになった時から、覚悟はできていた。
好奇の目に晒されるのも仕方がない。こちらも、初めて見る形態の人に驚き、戸惑っていたのだから。
だが、ここまで危険視されてしまうとは。それも、自分自身ではなく、この「通訳鳥」のせいで。頼んでもないのに付いてきた、赤い鳥。勝手に引き継ぎをして交代した青い鳥。
「どうしてくれるんだ、青い鳥。誰もいなくなってしまったよ」