2019年3月27日水曜日

蜜の味

その人の肩に咲いたオニサルビアは、花穂がふるふると震えていた。ひとつひとつの花が、少女のように笑っていた。
オニサルビアを生やしたその人は、ニッコリと笑ってこう言った。
「あなたが『鳥』なのね、初めて本物に会えた。本でしか知らなかったから」
「鳥は、皆あなたのようにお喋りができるの?」

青い鳥は、喋ろうとしない。
「鳥は、いろいろな世界に多くの種がありますが、言葉を発する鳥は限られています。この青い鳥は、些か照れているようです。そして、この鳥は基本的には任務のためにしか話ません。自分の意志を喋ることはあまりないのです」
なるたけ丁寧に説明しようとしたら、堅苦しくなってしまった。オニサルビアの花は一斉にケタケタと笑った。セージの香りが強くなる。

ふいに肩が軽くなった。青い鳥が、オニサルビアに向かって飛んだ。
「あ! こら!」
青い鳥は、花穂に近づき、一番てっぺんの花に、まるで接吻をするように、そっと嘴を近づけた。一瞬で、花たちが色鮮やかになる。

香りが強くなった。
物陰で様子を窺っていたらしい人々とその植物が、顔を出したのだ。

嘴に蜜の雫を輝かせたまま、青い鳥は朗々と宣言した。
消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者と、青き鳥、ここにあり!」