強く複雑な香りは、身体に堪える。
匂いは慣れやすいというが、様々な植物を肩に生やした人がすれ違うせいか、刻々と匂いが変わり、鼻が休まらない。匂いを検知した脳も、いちいち過去に嗅いだ事のあるものかどうか照合するらしく、忙しい。
どこか、匂いの移り変わらないところで休みたい。
「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者が、嗅覚の休憩を所望する!」
赤い鳥に負けず、少し頓珍漢な言葉と節回しで、青い鳥が朗々と言った。
低音で渋い声が響き渡り、肩から植物を生やした人々は一斉にこちらを見る。勢いよく一度に人々が動いたせいか、多種多様な匂いの風圧に押され、倒れそうになる。
「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者が、嗅覚の休憩を所望する!」
倒れそうになったのは、こちらだけではなかったらしい。この街の人々は、戦慄していた。青空色の鳥とは異なる青さで、顔色を悪くしている。
この肩にいるのが、植物ではないという事実に。