折りたたみ傘が旅に出たいと騒ぐ。風が強いせいだろうか。新しい傘に嫉妬しているのかもしれない。
私は必死に傘を持つ。でも、心のどこかで、傘のしたいようにすればよいじゃないか、と思っている。
そんな瞬間にいっそう強い風が吹き、傘はおちょこになってしまう。
それでも私にはこの傘が必要なのだ。電車に乗る度、屋内に入る度、私は折り畳み傘を丁寧に畳み、カバーを着ける。
畳まれた傘は少し泣く。
折りたたみ傘が旅に出たいと騒ぐ。風が強いせいだろうか。新しい傘に嫉妬しているのかもしれない。
私は必死に傘を持つ。でも、心のどこかで、傘のしたいようにすればよいじゃないか、と思っている。
そんな瞬間にいっそう強い風が吹き、傘はおちょこになってしまう。
それでも私にはこの傘が必要なのだ。電車に乗る度、屋内に入る度、私は折り畳み傘を丁寧に畳み、カバーを着ける。
畳まれた傘は少し泣く。
白い花が一面に散らばっている。雨に濡れた辛夷の花。
花を落としてしまった辛夷の樹は、茫然自失で雨に打たれている。
「気持ちがわかるなあ」
樹を見上げながらウサギは言う。
「ウサギの花はどこに咲くのだ?」
からかってみたものの、白い花びらの中で佇むウサギと辛夷は確かによく似た気配で、しばし見惚れる。
新しい傘は、おそらく有能過ぎるのだ。
雨粒は美しい音を奏でる。
今までに聞いたことのないような音で、雨粒は傘に落ちる。ポタポタでも、ザアザアでもなく、リンリンと。
雨粒はするすると転がる。
目を凝らして見る限り、雨粒はすべて等しい大きさの球体となって、傘の縁まで転がり、そして地面に落ちた。
そして、新しい傘は非常にプライドが高いようだ。
店内に入る時に渡されたビニールの袋を、何度着せても脱いでしまう。
「十二歳? 歳男か」
ウサギが十二歳になったという。まだほんの子供ではないか、こんなにふてぶてしいのに。
「どうしてウサギの癖に、卯年に生まれなかったんだ?」と問い詰める。
ウサギは「知ったこっちゃない」と、すねてしまった。
「フローズンヨーグルトを分けてやろうと思ったのに」と呟いた声は、春一番にかき消された。