その男は腹が透けて見える。
初めて見せてもらったときには、「ああ、理科室の人体模型って、正しいんだな」と些か間抜けなことを言ってしまった。
男は腹が透けて見える代わりに、空腹中枢がイカれている(本人談)のだそうで、空腹を自覚することが難しいらしい。
なるべく決まった時間に食事をするように心がけてはいるが、時折腹を覗いて、胃袋の中を確かめなければならない、と。
子供の時は、自分の胃袋に吸い込まれる夢をよく見たらしい。それは、空腹に耐えかねた胃袋が膨張し、腹を突き破り、やがて破裂した胃袋が裏返って自分の身体が己の胃袋に飲み込まれる、というような夢だそうだ。
「最近は滅多に見ないけれどね」と笑う男に俺は笑い返せなかった。その夢は、俺もよく見るのだ。