懸恋-keren-
超短編
2011年1月31日月曜日
結晶しそこない
紫は困っていた。
「わたしの耳はどうしちゃったのかしら。トランペットたちの声が聞こえない。」
大勢の楽団の、楽器ひとつひとつの声をちゃんと聞き分けられる耳を持っている。
だが、トランペットの声だけが透明になってしまった。
そう、透明なのだ。水晶のトランペットが三人、華やかで軽やかな主旋律を歌っているはずなのだ。
紫は、その小さな身体の、小さな鼓動の中に、紫水晶を育てなければならないことを、すっかり忘れている。
透明なトランペットの声が聞こえないのも、たぶん、それが原因だ。
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