指を揃えた両のてのひらを頭上にかざす。人差し指と親指が作る三角窓から仰ぎ覗く東京の灰色の空は、ビルと電線で細かな欠片にしか見えない。
あの日初めて東京に来た時も、同じことをした。その頃はまだ辛うじて、てのひらの三角窓に、空だけを入れることもできた。
けれど今じゃ不可能だ。どこへ行っても空は細かい境界線が引かれ、難易度の高いジグソーパズルみたいになってしまった。
未来になれば、科学技術も開発計画も進んですっきりとした街並みになるんだと思っていた。
だが実際は、逆だった。東京は網の目どころか蚊帳の目のように電線が張り巡らされ、建物はひたすら天を目指して建設ラッシュが止まらない。
青空も、雲の流れも、夕焼けも、星空も、今や郷愁の中に生きているのみ。
突然、猛烈に空が恋しくなって、建設中のビルに駆け込む。都内一となる予定のビルだ。793階建ての667階まで完成、328階までは既に入居が済んでいる。
超高速エレベーターに乗って328階まで上がり「工事関係者以外立ち入り禁止」のゲートを破り、667階へ。ここから先はロボットの仕事場だ。警備を騙して、ようやく赤い鋼鉄の腕を見つける。あれに連れて行ってもらうのだ、東京で一番高い所へ。空を独り占めするために。
しがみ付いたクレーンはゆっくりと上昇を始める。
さぁ! 空だ、空だ、青空よ! ここまで来れば何も邪魔することはない!
しかし視界はいつまでも、のっぺりとしたグリーン一色。
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