酔わせるつもりが、酔ったのは俺のほうだった。
どうしたんだ、みっともない。こんなつもりじゃなかったのに。わずかに残った冷静な脳ミソが呟いているけれど、身体は言うことを聞いちゃくれない。
きっとアレだ。彼女が珍しいでしょ、と言って見せてくれた小瓶のせいだ。
透明な液体が入った龍の姿をした瓶は、小さいながらも今にも躍動しそうな迫力があって目が離せなくなった。
欲しい? と問われて答えた声は上ずっていたかもしれない。
「龍に勝つことが出来たら」
彼女は龍の尾を捻り、引き抜いた。瞬間、目が眩むほどの強烈な匂い。
やっぱりそうだ、俺が酔ったのは酒なんかじゃなく、あの龍のせいだ。
「中身はただの香水だよ? こんな腰抜けじゃ、まだ、あげられないね」と悪戯っぽく笑う彼女に凭れながら、今に見てろと回らない舌で言ったけれど、彼女に言ったのか龍に言ったのか、我ながらわからない。
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