2006年5月13日土曜日

猫の指輪

子供の頃飼っていた猫はレッドジャスパーという名前だった。
長くて発音しにくいからジャス、と呼んでいた。
ジャスは物心ついたころにはおばあさん猫だった。
お気に入りのクッションにグテっと寝そべっているか、よろよろと歩いているか。
時々朱い目でこちらを見て愛想を言った。
忘れもしない小学二年の五月十三日、朝起きるとジャスはいなくなっていた。
父は、死に場所を求めて出て行ったのだと言った。
よくわからないかったけど父がそう言うのだから、そうなのだろう、と考えることにした。
ジャスのお気に入りだったクッションに、
レッドジャスパーの石がついた指輪が置かれていたのは、
ジャスが出て行ってから五十日後のことである。
私の手はあれからずいぶん大きくなったが、
いつも指輪は左手の人差し指にぴったりと嵌まる。