「喉が渇かない?」
と僕は彼女に言った。
たいしたお金もないのに、僕らは隣町まで歩いてきた。学校の制服のままで。
彼女はまっすぐ前を見て歩き続ける。
僕はその横顔を時々見たり、繋いだ手に力を込めてみたけれど
やっぱり彼女は前を見たままだ。
たぶんよくて数日だ、この駆け落ちの真似事は。そう、僕たちは真似事の駆け落ちしかできない。
そんなことは彼女もわかってるはずだ。でも彼女の手は熱い。
「あきちゃん。おれ、喉渇いたよ」
もう一度言うと、学校を出てから初めて彼女がこちらを見た。初めて見る、強い瞳で。
僕は近くにあった公園のベンチに座らされた。
「かずくん、上向いて、口開けて」
僕がその通りにすると、彼女は胸元から僕がプレゼントしたペンダントを引っ張りだした。
安物だけど、シトリンという宝石がついている。
僕の開いた口の上でペンダントが揺れる。
彼女は涙を流しだした。
「え? なんで泣くの?!」
「だめ、口開けてて。こぼれちゃう」
ペンダントからオレンジジュースが落ちてきて僕の喉を潤した。
彼女は涙を流しながら、やっぱり前を見つめている。