2006年2月16日木曜日

栄養

 11才の秋から、押し入れの中にしゃれこうべが住むようになった。
 しゃれこうべは出来の悪いテストや、エロ本やアダルトビデオ、出せなかったラブレターや、ネコババしたマンガを食べて暮らしていた。どれも家族にも友達にも見せられないものばかりだ。
 しゃれこうべは、食べた物から知識を得たらしい。僕が押し入れを開けるたび
「前から好きでした!」
「関係代名詞!」
「きみのことが頭から離れない!」
「もっと!」
「古今和歌集!」
「濡れた!」
「じっちゃんの名にかけて!」「禁断エロス!」
などと顎関節をガクガクさせながら叫んだ。叫ぶのを止めさせようとして、何度も手を噛まれた。
 しかし、最近は元気がない。叫び声にも張りがない。食べ物がなくなってきたのだ。
 ラブレターなど書かなくなったし、こそこそとエロ本を見ることも少なくなった。テストなんか、何年も受けていない。
 僕は、しゃれこうべの栄養のために秘密を作らなければならない。浮気でもしてみようか?そんなことでは、弱ったしゃれこうべには物足りないかもしれない。
 もっと、栄養の付くものを。もっと飛び切りの秘密を。
 まずは出刃包丁を買いにいこう。そのうちに押し入れのしゃれこうべは二人になるはずだ。