「さてと」
月は、向かいに座らせた少年に向かって言った。
「訳を聞かせてもらおうではないか」
ふて腐れている少年は、少女よりずっと年長である。
道ですれ違った少年たちの一人が「月を食べた」と話ているのを聞き、彼を強引に連れて来た。
少女は二人の顔を見比べながら息を飲んだ。
「だから、『お月様』を食べたんだって言ってるんだよ!」
「いつ? どこで? どうやって?」
少女は叫んだ。
「ストップ! ナンナル、質問が下手!」
月は不意をつかれて、黙る。
「お兄ちゃん、『お月様』はおいしかった?」
「うまかった」
「んじゃ、ナンナルの勘違いだよ。お兄ちゃん、ごめんね」
少年はポケットから菓子の入った包みを出して、去っていった。
少年が置いていった『お月様』という名の新発売の菓子を食べながら月は言った。
「なぜおいしいかどうか、聞いたんだ?」
「ナンナルは、まずいから」
少女は誰よりも月の味を知っている。