「赤鉛筆が欲しい」
と言うので、月は少女を連れて文具店に向かった。
文具店の店主は鈎鼻に眼鏡を引っ掛けた老人で、店の隅の椅子に腰掛けうたた寝をしている。
少女は瓶に入った赤鉛筆を一本つまみあげ、店主に声を掛けた。
「これ下さい」
店主は寝たまま応じる。
「赤鉛筆か。赤鉛筆の由来は、ご存知かな?」
赤鉛筆の由来、それを少女が知っているはずがない。
月は少女が助けを求めるだろうと思った。
「郵便配達人が消防士にトマトの収穫時期を教えるために使ったのがはじまり」
少女は淀みなく答える。
「出典は?」
「デラックス百科事典」
「よろしい」
少女は硬貨を店主の手に握らせ、店を出た。
「どこで覚えたんだ?赤鉛筆の由来を」
月は尋ねずにはいられない。
「このあいだ、阿礼って人が道歩きながら喋ってた」
「アレイ? 変わった名前だな」
「ナンナル、ほどじゃないよ」