赤信号で停まっていると、兎がウサギ型の風船を売りにきた。
「いくら?」
「dock bock」
ぼくは兎に5¢やってサイドミラーに風船をくくりつけた。
「おーい!マッチをくれ」
マッチをカゴ一杯に入れて歩く少女を見つけて車中から声を掛ける。
ぼくは煙草が吸いたい。
マッチ売りの少女はまっすぐ前を見て歩き、ぼくの声に振り向くこともない。
山羊がヤギの指人形を両手につけ、コントをしている。
立ち止まる者はいない。
波止場で車を降り、ウサギ型風船を右手に持って歩く。
波間に浮かぶリンゴたちが月に照らされている。
車に戻ると、ボンネットに空き瓶とマッチの燃えさしがひとつ。
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1.17に寄せて
佐々木マキ「ピクルス街異聞」1971年をモチーフに