懸恋-keren-
超短編
2004年12月3日金曜日
雪の洗礼
初めて雪国へ行ったのは小学五年の冬だった。
僕は興奮し、ただただ一人で駆け回っていた。
しばらくはしゃいでいると、突然とパキリと動けなくなった。
「おとーさーん!」
どうしていいかわからず父を呼ぶが、積もった雪は声を吸い取った。
「影が凍ったな」
そばを通り掛かったおじいさんが言った。
「そこへ倒れとけ。じきに溶けるすけ」
ぼくは雪の上に仰向けに倒れた。
大の字になって灰色の空を眺めていると、じんわりと背中が暖かくなった。
背中が痒くなったので起き上がった。
ぼくはまた、駆け出した。
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