はて、こんなところに公衆電話なんてあったかな。
老女が入っていた電話ボックスには見覚えがなかった。
よく磨かれた透明ガラスの中には、黒一色のプッシュフォン…まさか。
「おばあさん、かけちゃだめだ!」
扉を開けた時には、もう遅かった。
「ヨシオかい?母さんだよ、ちょっと膝が痛くてね、ちかご…」
老女の身体は頭から闇になり、足元まですっかり闇化すると、受話器に吸い込まれた。
垂れ下がった受話器が揺れているのを見ながら、俺は電話ボックスを離れた。
黒い電話はさらに黒くなり、満足そうに受話器が元に戻る。
強がりな影の弱気な「穴」に紛れる、影電話。
あなたの影にも電話が潜んでいるかもしれない。