2004年12月30日木曜日

もし、お前さん

下ばかり見て歩いていると影に蹴り上げられて、後頭部強打でナンマイダ、ですよ。

2004年12月29日水曜日

だれのせい?

影が滲むのは、雪のせい。
雪が解けるのは、犬のせい。
犬が吠えるのは、影のせい。

犯人は誰?

目が覚めると、影が白い血をあちこち滲ませていた。ところどころ赤い血も見える。
「一体何があったんだ、ぼくの寝ている間に」
絆創膏を貼ってやりながら問い質す。影に無茶されれば、結局はぼくが困るのだ。
「通り魔を追い掛けた?それでちゃんと捕まえたのか?え?殺しちゃった?!死体は家の前?おいおい魂消(タマゲ)たねえ、こりゃ」
やっばり警察に行かなくちゃいけないかなあ。もしかしてぼくの影の罪はぼくの罪?でもぼくは寝てただけで。かといって影だけ牢屋に入るのもおかしな話だ。まったくなんてことをしてくるんだ、影は。ぼくと違ってずいぶん乱暴な性格だとは思ってたけど、まさか人殺しをするなんて。やっぱりここは知らんぷりをキメるしかないな。だってぼくはなにもしていないんだし。
パトカーのサイレンが近付いてきた。

2004年12月27日月曜日

仁義なき戦い

「怪しい奴め。まったくけしからん」
おじいさんは気に入らない。
いつも付いてくる黒い輩。杖で何度も戦いを挑んだが、敵はまったく堪えない。

2004年12月24日金曜日

WhiteChristmas2

クリスマスイヴの晩、影たちは、サンタクロースを迎えに行きます。
サンタクロースがよく見えるように、月は影たちを一晩だけ白くしてくれます。
影がいないので、子供達はぐっすりと眠ります。
子供達がどんなにサンタクロースに会いたくても起きていられないのは、そんな秘密があるのです。

2004年12月23日木曜日

忍び寄る影

長く伸びた男の影が歩いていた。
「どこに行く?」
私の影が話し掛ける。
「おまえらには関係ない」
私は大きく息を吐く。
「まもなく日が暮れる、そうやってひとりでいると、朝になるまでに死んでしまう」
「【本体】のもとに戻ったほうがいい」
「気持ちはわかる。しかし、一人になってもいいことはない」
私の影は説得を始めたようだ。
「…そうやって心配してくれたのはあんた達がはじめてだ」
影は私に近付き、すっと足に触れた。
私の影は、16体になった。

2004年12月21日火曜日

表裏一体

影の裏には影がある。

2004年12月19日日曜日

そんな昼下がりの公園

フケを撒き散らしながらうろつくおじさんの
溜息を煙草に託すおねえさんの
ブランコよりバイクに乗りたい高校生の
昼寝する猫の
あと50mが辛いおばあさんの
ゴミ置き場を突く鳩の
週刊誌のアイマスクが似合うおじさんの
影たちが仲良くはしゃぎまわる。

2004年12月18日土曜日

ミドリちゃんと赤い影

ミドリちゃんの影は赤い。
ほかの人は影が一人で黒を背負わなくてはならないけれど
ミドリちゃんは緑だから、影は赤だけで黒くなれる。
ミドリちゃんとミドリちゃんの赤い影は、それで上手くいっていた。
ところが、ミドリちゃんが、強姦されて血を流して倒れていた時、誰も気がつかなかった。

2004年12月16日木曜日

黒い電話を見つけたら

はて、こんなところに公衆電話なんてあったかな。
老女が入っていた電話ボックスには見覚えがなかった。
よく磨かれた透明ガラスの中には、黒一色のプッシュフォン…まさか。
「おばあさん、かけちゃだめだ!」
扉を開けた時には、もう遅かった。
「ヨシオかい?母さんだよ、ちょっと膝が痛くてね、ちかご…」
老女の身体は頭から闇になり、足元まですっかり闇化すると、受話器に吸い込まれた。
垂れ下がった受話器が揺れているのを見ながら、俺は電話ボックスを離れた。

黒い電話はさらに黒くなり、満足そうに受話器が元に戻る。
強がりな影の弱気な「穴」に紛れる、影電話。
あなたの影にも電話が潜んでいるかもしれない。

2004年12月14日火曜日

あなたは知らないでしょうけれど

眠れない夜、あなたの影が子守歌を歌いにくる。
私はその声に包まれて、眠りに落ちる。
次の日あなたは元気でもあなたの影は欠伸ばかりしているから、ゴメンね、と小声で言う。
あなたの影はピースサインをして見せる。

2004年12月13日月曜日

ちょっと聞いてもいいですか

影まんじゅうを食べたい、と言って、じいさんは死んだんです。影まんじゅう、どこで売っているか、知ってますか?

初恋

麗しの君は、黄色い影の持ち主でした。

2004年12月10日金曜日

交通事故

「やった!」
俺は路肩に停めて、車から降りた。スッと猫が飛び出して来たのだ。
恐る恐る横たわる猫に近づく…あれ?
道路に倒れているのは、猫の影だった。
「おい、猫。おまえは影だけの猫じゃないか。車に轢かれたからってどうってことないだろ」
俺は猫の影をつついた。指にはアスファルトの感触だけ。
「おい、起きろよ、猫の影。起きないとなぁ…」
俺は辺りを見回し、ジーンズのジッパーを下ろした。「…こうしてやる!」
たちまち猫の影は動きだし、身震いしてしぶきを盛大に撒き散らし去った。
俺は、出始めたものを途中で引っ込めるわけにもいかず、道路の真ん中でむなしく立ち小便を続けた。

2004年12月9日木曜日

 アケミちゃんはアンドーナッツを食べます。アケミちゃんはアンドーナッツより甘納豆のほうが甘いから好き
なのだけれど、あいにく甘納豆は朝市で売っていませんでした。
 アンドーナッツを食べ終わってあくびをしていたアケミちゃんは足元にアリが集まっていることに気付いきま
した。「あー!」と声をあげるとアリたちはアケミちゃんを見上げて
「アンドーナッツをありがとう、アケミちゃん。」
と言いました。アリたちはアンドーナッツのおこぼれにあずかったのです。アケミちゃんのお行儀は目に余るも
のがあるようですね。
 あきらめの悪いアケミちゃんはアリに負けじとアンドーナッツのカケラを集めました。あまりにも浅ましいの
で茜色のアゲハチョウも呆れています。
 茜色のアゲハチョウというのは雨上がりの朝の空き地にしか現れません。アケミちゃんはそれを見つけて
「あ!茜色のアゲハチョウだ」
と網を振り回しました。
 あっという間にアゲハチョウを捕まえたアケミちゃんはアキラくんに挨拶に行きました。
「アキラくん、茜色のアゲハチョウを捕まえました。」
アキラくんは茜色のアゲハチョウが欲しくなって、アケミちゃんと争いました。
 荒っぽく扱われたアケミちゃんは穴に埋められ、茜色のアゲハチョウは明くる日に泡になりました。あしから
ず。

きららメール小説大賞投稿作

2004年12月7日火曜日

ないしょばなし

影の涙は酸っぱいんだってさ。

2004年12月5日日曜日

某国の格言

「皿は割れても皿の影は割れない」

2004年12月4日土曜日

ゆきのゆめ

ぼくの影の恋の相手は雪だるまだった。
近所の子供が作ったであろうその雪だるまの前を通り掛かかったその時
影は僕からすっと離れ、雪だるまに寄り添い、染み込んだ。
雪だるまは白ではなくなり、影は黒くなくなった。
僕はその光景を見てドキドキした。恋愛映画を見ているように。
翌日から雪だるまは溶け始め、四日後に雪だるまとは呼べない形になり、その二日後には跡形もなくなった。
僕はアスファルトに、僕の影の痕跡を求めたが、見つけることはできなかった。

2004年12月3日金曜日

雪の洗礼

初めて雪国へ行ったのは小学五年の冬だった。
僕は興奮し、ただただ一人で駆け回っていた。
しばらくはしゃいでいると、突然とパキリと動けなくなった。
「おとーさーん!」
どうしていいかわからず父を呼ぶが、積もった雪は声を吸い取った。
「影が凍ったな」
そばを通り掛かったおじいさんが言った。
「そこへ倒れとけ。じきに溶けるすけ」
ぼくは雪の上に仰向けに倒れた。
大の字になって灰色の空を眺めていると、じんわりと背中が暖かくなった。
背中が痒くなったので起き上がった。
ぼくはまた、駆け出した。

2004年12月2日木曜日

小春日和

影が眠ってしまったので、抱えて歩く。寝息を立てる影はお日さまの匂いがする。

2004年12月1日水曜日

イキハヨイヨイ カエリハ…

散歩にでかけた。道が分かれ、どちらに行こうか迷っていると影が指を指した。
「影の言うとおりに行ってみるか」
影は辻にくる度にビシッと指を指した。
僕は影の指図を見逃さないように下ばかり見て歩いた。
少しづつ影が長くなり、すぐに暗くなった。
しばらくは街灯を頼りに影は動いていたが、まもなく真っ暗になった。
はじめて辺りを見回した。暗くて何も見えないが、知らない場所であることは間違いない。
足が棒のように疲れていた。のども渇いた。冷たい風が吹いた。
でも僕は財布もコートも持っていない。ほんの少し近所を廻るつもりで家を出たのだから。
僕はその場にしゃがみ込み、目を閉じた。朝になれば影が家まで連れていってく れる さ…