赤い毛糸の帽子を拾った。
真夏にふかふかの帽子が落ちているなんて、どういうことだろう。
そう思ったら、しゃがみ込んで帽子を掴んでいた。
ほっときゃいいのに、とクールな自分が非難するが、一度拾ったものを、捨てることはできない。
―そうだ。交番に持っていこう―
交番に届け物をするなんて、生まれて初めてだ。
新しい遊びを思い付いた時のように、興奮した僕は駅前の交番に急いだ。
交番ではお巡りさんが、毛糸の帽子に囲まれてふぅふぅ言っていた。
いっそ雪でも降ればいいのに。暖かい帽子には困らないぞ、とお巡りさんは毒づく。
一週間ほど前から毎日数十の毛糸の帽子が届けられるようになった。
持ち主が現れる可能性はまずない。
それはわかるだろうのに、意気揚々と届けにくる人が後を断たない。
ほら、また赤い帽子を持った若者が嬉しそうに駆け足でやってきた。