2003年7月3日木曜日

月のサーカス

小父さんはサーカス団を持っていると言う。つまり団長だ。
「連れていって!」
「その必要はない。サーカスを連れてくるよ」
次の晩、小父さんは箱を持ってきた。
箱を机に置き咳払いをひとつして小父さんは言った。
「さあ、月のサーカスの始まりです」
「?」
「覗いてごらん」
「……全部、小父さん?」
箱の中では団員たちがさまざまな芸当を繰り広げていた。
玉乗り、空中ブランコ、綱渡り…よくよく見ると団員はすべて小父さんだ。
「さよう」
小父さんは胸を張って応えた。
ぼくは一晩中箱を覗いていた。ぼくだけのサーカスを。