懸恋-keren-
超短編
2003年7月26日土曜日
ニュウヨークから帰ってきた人の話
「アタシね、長いことニュウヨークにいたの」
マネキンは斜め上を見上げたまま言った。「ニュウヨークではじめて着た服はワインレッドのスカート。通りを歩くたくさんの人がみんなアタシを見るの」
ニュウヨークもワインレッドもよくわからなかったけど、マネキンが昔は違う町にいたことが、ぼくには驚きだった。
「毎週違う服を着たのよ。でも今は一年中空色のワンピース。ずっと同じポーズのままで……でも、アタシここが好き。坊やとおしゃべりできるもの」
ぼくはどう答えたらいいのかわからなくて「うん」とだけ言った。
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