2003年7月28日月曜日

月の客人

「ラングレヌス」
小父さんがコウモリ傘を差して降りてくる、そのシルエットは毎晩見ていても飽きない。
でも今日はちょっと違うぞ。なんだか大きな荷物でも抱えているような。

小父さんが抱えていたのは、赤ん坊だった。
「預かっていたのだが、連れてきてしまった。……あー最近知り合ったんだ。当たり前だな、生まれたばかりなんだから」
小父さんは小さなお客さんの接待に戸惑っているらしい。そんな小父さんにかまわず赤ん坊は言った。
「お初にお目にかかります」
スッと差し出された手は力強くぼくの指を握った。
「ハジメマシテ」
「何して遊びますかな?……その前にミルクを頂戴できますか?熱すぎないように温めて下さると有り難い」
ちょびっとのミルクを程よく温めるのはなかなか難しい。小父さんが様子を見に来た。
「だいじょうぶ。もうすぐできるよ……あの子、ずいぶん丁寧な赤ちゃんだねぇ」
小父さんはキョトンとして答えた。
「何?ただエンエンとうるさく泣いているだけではないか」