「ごめんなさい!」
その角を曲がろうとしたぼくは女の人にぶつかった。
「こちらこそごめんあそばせ。あら!坊やじゃない」
ええ?こんな女の人の知り合いはいないはずだけど。
ぼくがぽかん、としていると女の人は言った。
「やだ、わからない?アタシよ」
彼女は空色ワンピースを翻してポーズを作って見せた。
「あ、マネキンの……でもどうして?」
マネキンはニッコリとした。
前におばさんって呼んだことをちょっぴり後悔した。
ぼくは、まだポーズを作ったままのマネキンをよけて角を曲がり
ショウウィンドウが空っぽなのをしっかり見てから
マネキンのところまで戻った。
「どうして動けるのかアタシもわからないの。そうだわ、ね、坊やデートしましょ」
マネキンはさっきよりももっとニッコリした。
でもデートはできなかった。マネキンは次の角を曲がったところでただのマネキンに戻ってしまったのだ。
ぼくは10cmも背の高いマネキンを担いでショウウィンドウまで運ばなければならなかった。
マネキンはぼくに担がれながら、すごくすごく泣いた。
ぼくは、女の人がこんなに泣くのを初めて見た。