黒い箱を届けに来たロボットは、なかなか帰ろうとしなかった。
「もうキミの仕事は終わったただろう?」
それでもロボットは完全な笑顔のまま動かない。
私は無視して部屋に入り、箱を開けようとした。
だが、それはできなかった。
箱には隙間がなく、ナイフを当てても、床にぶつけても、何の変化もなかったのだ。
私は諦めて再び玄関に向うことにした。予想通り配達ロボットはそこにいた。
「この箱を開けてくれ」
ロボットは黒い箱を食べ、数十秒後に排泄した。出てきたのは手紙だった。
2002年12月27日金曜日
A ROC ON A PAVEMENT
いつもの道にちょっと大きな石があった。
道のまんなかにわざと置いたようで気になった。
翌日もまったく同じ場所に石はあった。
しかし、同じ石がもう一つ積んであった。
何度も確かめたがやっぱり同じ石が二つ重なっている。
一日ごとに石は高くなっていき、一月もすると人の背丈をはるかに越えた。
町は大騒ぎになったが、何をしても石は崩れなかった。
ある日、石は跡形もなく消えていた。
そのかわり、町にはウサギが大発生した。
もちろん、みんな同じ顔をしている。
道のまんなかにわざと置いたようで気になった。
翌日もまったく同じ場所に石はあった。
しかし、同じ石がもう一つ積んであった。
何度も確かめたがやっぱり同じ石が二つ重なっている。
一日ごとに石は高くなっていき、一月もすると人の背丈をはるかに越えた。
町は大騒ぎになったが、何をしても石は崩れなかった。
ある日、石は跡形もなく消えていた。
そのかわり、町にはウサギが大発生した。
もちろん、みんな同じ顔をしている。
2002年12月26日木曜日
どうして酔よりさめたか?
あんまり酔っ払って公園のベンチで寝てしまった。
「もし、あなた。こんなところで寝ていると、連れていってしまいますよ」
「……誰が?」
「わたしが」
「アンタだれ?」
「わたし死神」
それが冗談でないことは、彼の足元を見れば明らかだった。私はいっぺんに目が覚めた。
「規則違反ですから、私はすぐ帰ります」
「はぁ、どうもご親切に」
死神なんてもう会いたくないな、と呟いたら
「嫌でももう一度会いますよ」
と言われた。その声は、なぜだか懐かしくて、あと一度だけなら会ってもいいような気がした。
「もし、あなた。こんなところで寝ていると、連れていってしまいますよ」
「……誰が?」
「わたしが」
「アンタだれ?」
「わたし死神」
それが冗談でないことは、彼の足元を見れば明らかだった。私はいっぺんに目が覚めた。
「規則違反ですから、私はすぐ帰ります」
「はぁ、どうもご親切に」
死神なんてもう会いたくないな、と呟いたら
「嫌でももう一度会いますよ」
と言われた。その声は、なぜだか懐かしくて、あと一度だけなら会ってもいいような気がした。
2002年12月24日火曜日
2002年12月23日月曜日
2002年12月21日土曜日
2002年12月20日金曜日
2002年12月18日水曜日
THE WEDDING CEREMONY
友人の結婚式の招待状が届いた。
招待状に書いてあった通り、夜の八時に出掛けていった。
夜の教会というのは、寂しく荘厳で、不気味でさえある。
十字架が大きくなるにつれて気分は沈んでいった。
なかに入ると薄暗く、ほかの人の顔を確認することはできなかった。
月明かりはまっすぐ、神父だけを照らしていた。
神父が眩しそうに目を細めると、新婦は新郎の首にくちびるを寄せた……。
はじめのうちは憂鬱な気分だったが、なかなか良い式だったと思いながら家路についた。
最後まで友人の妻となった人の顔は見えなかったけれど。
招待状に書いてあった通り、夜の八時に出掛けていった。
夜の教会というのは、寂しく荘厳で、不気味でさえある。
十字架が大きくなるにつれて気分は沈んでいった。
なかに入ると薄暗く、ほかの人の顔を確認することはできなかった。
月明かりはまっすぐ、神父だけを照らしていた。
神父が眩しそうに目を細めると、新婦は新郎の首にくちびるを寄せた……。
はじめのうちは憂鬱な気分だったが、なかなか良い式だったと思いながら家路についた。
最後まで友人の妻となった人の顔は見えなかったけれど。
2002年12月16日月曜日
2002年12月15日日曜日
2002年12月14日土曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
クリスマスの電飾が賑やかな家の角に黒ヘルメットを被った人がいた。
私が角を曲がると黒ヘルメットはついてきた。
「何の用だ?」
「あれは何だ?あのピカピカは何だ?」
子供の声だった。私はなるべく平静に答えた。
「あれはクリスマスの飾りだよ。今日はクリスマスイブだからな」
「クリスマス……サンタが来るのか?おれにも来るか?」
黒ヘルメット以外ひどく貧しいことに気付き少し迷ったが私はこう言った。
「いい子にしてればな。そうだ、おじさんの家に来るかい?」
「行く」
こうして私は子持ちになった。
私が角を曲がると黒ヘルメットはついてきた。
「何の用だ?」
「あれは何だ?あのピカピカは何だ?」
子供の声だった。私はなるべく平静に答えた。
「あれはクリスマスの飾りだよ。今日はクリスマスイブだからな」
「クリスマス……サンタが来るのか?おれにも来るか?」
黒ヘルメット以外ひどく貧しいことに気付き少し迷ったが私はこう言った。
「いい子にしてればな。そうだ、おじさんの家に来るかい?」
「行く」
こうして私は子持ちになった。
2002年12月12日木曜日
見てきたようなことを云う人
『スターダスト』で見知らぬ男に声をかけられた。
「ドーナツの穴に入ったことはありますか?」
彼は物静かな口調で問うてきたが
私は応えようがなくて黙っていた。
「あれは、素晴らしい世界の入り口です。そこは甘く切ない香で満ちていました。人々はみな笑顔です。夢のような光景が広がっていました。そして空には青い宝石のような地球!」
段々芝居掛かってきた。
「ああ!誰もが心ときめく世界!あなたもきっと行けるはず!ラララ ワンダフルワールド!」
最後は歌いながら去っていった。
それ以来、ドーナツが食べられない。
「ドーナツの穴に入ったことはありますか?」
彼は物静かな口調で問うてきたが
私は応えようがなくて黙っていた。
「あれは、素晴らしい世界の入り口です。そこは甘く切ない香で満ちていました。人々はみな笑顔です。夢のような光景が広がっていました。そして空には青い宝石のような地球!」
段々芝居掛かってきた。
「ああ!誰もが心ときめく世界!あなたもきっと行けるはず!ラララ ワンダフルワールド!」
最後は歌いながら去っていった。
それ以来、ドーナツが食べられない。
2002年12月11日水曜日
友だちがお月様に変わった話
友達の家に遊びに行った。
チャイムを鳴らし、まもなく出てきたのはお月さまだったので
「やぁ、お月さまも来ていたんですか!」
と言った。
「何言っているんだよ?」
とお月さまは友達の声で言った。
彼は鏡を見てショックを受けていた。自分の姿が月なのだ。
とにかく本物のお月さまに会いに行くことにする。
『スターダスト』に行くとお月さまもひどく驚いたようだった。
店の中でも店を出た後も我々はジロジロと見られ、私は複雑な心持ちがした。
注目を浴びたのは、お月さまになった彼ではなく、お月さまに挟まれた私だったのだ。
チャイムを鳴らし、まもなく出てきたのはお月さまだったので
「やぁ、お月さまも来ていたんですか!」
と言った。
「何言っているんだよ?」
とお月さまは友達の声で言った。
彼は鏡を見てショックを受けていた。自分の姿が月なのだ。
とにかく本物のお月さまに会いに行くことにする。
『スターダスト』に行くとお月さまもひどく驚いたようだった。
店の中でも店を出た後も我々はジロジロと見られ、私は複雑な心持ちがした。
注目を浴びたのは、お月さまになった彼ではなく、お月さまに挟まれた私だったのだ。
2002年12月10日火曜日
THE BLACK COMET CLUB
「旦那、黒彗星クラブに入りやせんか」
ウサギが突然訪ねてきてそう言った。
「なんだい?そのクロナントカっていうのは」
「月に対抗する集まりですわ。例えば新月祭り、満月の外出禁止、月を好む人を迫害……」
私は唖然とした。
「メチャクチャじゃないか!第一そんなことをしてもお月さまはちっとも困らないぞ」
ウサギは私の剣幕に驚いてか、すごすごと帰っていった。
数時間後、あちこちの貼り紙を見てクックと笑ってやった。
《ウサギにご用心。当THE BLACK COMET CLUBは天体観測サークルです。黒彗星クラブとは一切関係ありません》
ウサギが突然訪ねてきてそう言った。
「なんだい?そのクロナントカっていうのは」
「月に対抗する集まりですわ。例えば新月祭り、満月の外出禁止、月を好む人を迫害……」
私は唖然とした。
「メチャクチャじゃないか!第一そんなことをしてもお月さまはちっとも困らないぞ」
ウサギは私の剣幕に驚いてか、すごすごと帰っていった。
数時間後、あちこちの貼り紙を見てクックと笑ってやった。
《ウサギにご用心。当THE BLACK COMET CLUBは天体観測サークルです。黒彗星クラブとは一切関係ありません》
2002年12月9日月曜日
2002年12月8日日曜日
2002年12月7日土曜日
黒猫を射ち落とした話
「あの電信柱のてっぺんにいる猫を狙ってください」
言われた通り弓矢を持って駆け付けると
お月さまはかなり焦っていた。
はやくとせかされ、八本も外してしまう。
ようやく九本目、猫に矢が刺さった。
血は流れず、矢にもやもやとしたものが集まるのが見えた。
やがて矢は猫の体から抜けて空へ飛んでいった。
「悪い星に取りつかれたんです。手遅れにならなくてよかった」
落ちてきた黒猫は傷もなく、幸せそうに寝ていた。
「明日には目覚めるでしょう」
黒猫はお月さまに抱かれて行ってしまった。
言われた通り弓矢を持って駆け付けると
お月さまはかなり焦っていた。
はやくとせかされ、八本も外してしまう。
ようやく九本目、猫に矢が刺さった。
血は流れず、矢にもやもやとしたものが集まるのが見えた。
やがて矢は猫の体から抜けて空へ飛んでいった。
「悪い星に取りつかれたんです。手遅れにならなくてよかった」
落ちてきた黒猫は傷もなく、幸せそうに寝ていた。
「明日には目覚めるでしょう」
黒猫はお月さまに抱かれて行ってしまった。
2002年12月6日金曜日
A TWILIGHT EPISODE
いつもより二時間早く家を出た。
夜明けの町を歩くのはスクリーンの中にいるようで気恥ずかしい。
靴音とともに背筋も伸びる。
前からやってくるのは牛乳配達ロボットだ。
「オハヨーゴザいます」
「やぁ、おはよう」
今度は新聞配達の異星人だ。
「おはよう」
「……」
なかなか愛想がいい。角が青く光ったから。
あれは俺の親父だ。
「父さん、おはよう」
無視。まぁ仕方ない。幽霊だし。
あ、お月さまだ。
酔っ払っている。すれ違わないようにこの角を曲がろう。
夜明けの町を歩くのはスクリーンの中にいるようで気恥ずかしい。
靴音とともに背筋も伸びる。
前からやってくるのは牛乳配達ロボットだ。
「オハヨーゴザいます」
「やぁ、おはよう」
今度は新聞配達の異星人だ。
「おはよう」
「……」
なかなか愛想がいい。角が青く光ったから。
あれは俺の親父だ。
「父さん、おはよう」
無視。まぁ仕方ない。幽霊だし。
あ、お月さまだ。
酔っ払っている。すれ違わないようにこの角を曲がろう。
2002年12月4日水曜日
煙突から投げこまれた話
お月さまを迎えにいこうと夕暮れの『黒猫の塔』に向かった。
街灯に寄り掛かり煙突を見上げてどれくらいたっただろうか。
だいぶあたりが暗くなってきたと思うと煙突の真上の空で何か光が見えた。
その光はどんどん大きくなり、光に吸い込まれるような気がして目を逸らすことができない。
そのうちに見上げた空は光でいっぱいになり……
「どこか痛いところはありませんか?」
「はぁ……ここは……どこですか?」
「『黒猫の塔』の中ですよ。煙突から落ちてきたので驚きましたよ」
お月さまの目がキラリと光った。まるで猫の目みたいだった。
街灯に寄り掛かり煙突を見上げてどれくらいたっただろうか。
だいぶあたりが暗くなってきたと思うと煙突の真上の空で何か光が見えた。
その光はどんどん大きくなり、光に吸い込まれるような気がして目を逸らすことができない。
そのうちに見上げた空は光でいっぱいになり……
「どこか痛いところはありませんか?」
「はぁ……ここは……どこですか?」
「『黒猫の塔』の中ですよ。煙突から落ちてきたので驚きましたよ」
お月さまの目がキラリと光った。まるで猫の目みたいだった。
2002年12月3日火曜日
THE MOONRIDERS
近ごろ「ムーンライダース」なる暴走族が取り沙汰されている。
爆音を撒き散らしながら夜の住宅街を駆け巡る。
ところが住民は大喜びなのだ。
「ムーンライダース」が通った夜から三日は赤ん坊が夜泣きしないという。
その噂を聞き付けた隣町住民は「ムーンライダース誘致作戦」を展開しはじめた。
「ムーンライダース」と関係が深いと見られる男は沈黙を守っている……。
「この『男』っていうのはあなたでしょう?実際はどうなんですか?」
新聞を見せながらお月さまに聞いたが答えはやはり沈黙だった。
爆音を撒き散らしながら夜の住宅街を駆け巡る。
ところが住民は大喜びなのだ。
「ムーンライダース」が通った夜から三日は赤ん坊が夜泣きしないという。
その噂を聞き付けた隣町住民は「ムーンライダース誘致作戦」を展開しはじめた。
「ムーンライダース」と関係が深いと見られる男は沈黙を守っている……。
「この『男』っていうのはあなたでしょう?実際はどうなんですか?」
新聞を見せながらお月さまに聞いたが答えはやはり沈黙だった。
2002年12月2日月曜日
2002年12月1日日曜日
電燈の下をへんなものが通った話
「あ、今あそこに何か通った」
「どこ?」
「電燈の下。ほらあそこになんかへん……」
「ほんとだ。へんなものだ」
「なんだろ、あれ」
「へんなものだよ」
「へんなのは、見ればわかるよ」
「だからへんなものだよ」
若人の友情が壊れないかと心配になったが
「通称へんなもの」の正体を教えてやることはできない。
やっかいな約束をしてしまったのだ、お月さまと。
「どこ?」
「電燈の下。ほらあそこになんかへん……」
「ほんとだ。へんなものだ」
「なんだろ、あれ」
「へんなものだよ」
「へんなのは、見ればわかるよ」
「だからへんなものだよ」
若人の友情が壊れないかと心配になったが
「通称へんなもの」の正体を教えてやることはできない。
やっかいな約束をしてしまったのだ、お月さまと。
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