2002年4月30日火曜日

月をあげる人

月をあげる人がいるのを知っているかい?
そう、みんな知らないけど。
月はその人がいないと昇れない。ひとりではダメなんだ。
俺も月をあげることはできない。
彼の休みは大体十五日に一度だ。
俺は時々、彼に報酬の黄いろい粉を渡しに行く。
彼は黒猫を飼っているから、それが必要なんだ。
黒猫はたいそう生意気なヤツだ。
おまけに自分が飼われている、と思ってはいないみたいだけどね。

2002年4月29日月曜日

水道へ突き落とされた話

徹夜明け、洗面所でジャブジャブと顔を洗っていたら、後頭部をコツンと叩かれた。
洗面台に落っこちて、蛇口に吸い込まれた。
流れに逆らうのは、なかなか気分がよい。
そう思った瞬間、下水道まで流された。

2002年4月28日日曜日

はたして月へ行けたか

「月に行くのだ」と言い残し消えた彼の、その後を知る者は誰もいない。

2002年4月26日金曜日

星におそわれた話

星が集まってきていたので、おかしいナ、と思いながら歩いていた。
星たちはどんどん近づいていって、とうとう合体して空に浮かぶ巨大なカメラになった。
「うーん、いいねえ。どんどん逃げてー」
フラッシュが焚かれるたびに、黒くなった星の欠片が容赦なく降りかかってくるので、走り続けなければならなかった。
「そう、もっと逃げるんだ。ずっと追いかけてあげるから」

2002年4月25日木曜日

星でパンをこしらえた話

月が瓶に入った黄いろい粉と星の欠片をくれるという。
「これでパンを焼いてくれ」
さっそくパンをこしらえた。
黄いろい粉をタネに星の欠片をトッピングに。
なかなかうまく焼けた、と満足した。
月は焼きあがったパンを持って帰ってしまった。
その晩の月はおいしそうな湯気を立てていた。

2002年4月24日水曜日

自分を落としてしまった話

月が月を落とした。
彼は落ちるつもりではなかったのでとても驚いた。
彼も落とすつもりではなかったので戸惑い、焦った。
月に向かっていた。「よかった」と思った。
ぶつかる瞬間、月はゆがんだ。

2002年4月23日火曜日

ガス燈とつかみ合いをした話

酔っぱらってあちこち蹴飛ばしながら歩いていたら
「ちょっと君、失礼じゃないか。」と上から声がした。
周りには誰もいないので、もう一度そこを蹴飛ばしたら
それがつかみかかってきた。ガス燈だった。
格闘の末、火口を壊すとガス燈は動かなくなった。

次の晩ガス燈の前を通ると、やはり昨晩の体勢のままだったので
黄いろい粉を火口に蒔いておいた。

2002年4月22日月曜日

星?花火?

なんだか外が騒がしいのでベランダに出てみるとやけに空が賑やかだった。あっちこっちでパチパチしている。
近所の人も皆、空を見上げて
「今日は花火大会でもあったかしら」
「花火じゃないよ。でもこんな星、あるわけないし」
などと口々に言い合っている。
俺はそのショーを一晩中見ていた。
結局、花火なのか、星の仕業なのか、わからなかったけど。

2002年4月21日日曜日

TOUR DE CHAT-NOIR

崩れそうな石の階段を上っていくと黒猫が待っていた。
「ようこそ。どうぞこちらへ」
なんと高い塔のてっぺんに出た。強い風が吹いている。
風は黄いろい粉が混ざっていてキラキラしていた。

黒猫はうにゃーと欠伸をしながら言った。
「どうですか?よい眺めでしょう。では、さっそく仕事に取り掛かってください。この黄いろい粉を集めないと私の命に関わりますのでね……」
「あッ!」黒猫を見て思わず小さく叫んだ。
彼にはしっぽがなかったのである。

2002年4月20日土曜日

AN INCIDENT IN THE CONCERT

ホールはそのピアノを聴きにきた人々でいっぱいだった。
照明が落ち、塵の音もしないほどの静寂と緊張が訪れる。
お月様は開演ギリギリに席についた。
そしてピアニストと観客は〈月の光〉に満たされながら、そのメロディーに身を任せたのだった。

2002年4月19日金曜日

星を食べた話

庭に寝っころがって月を見ていたら星が口のなか目掛けて飛んできた。
思わず噛み砕くと、水色のハッカ味がした。
噛み砕いた欠片のいくつかは口から大慌てで飛び出て行った。

2002年4月18日木曜日

箒星を獲りに行った話

ある人にホーキ星を獲って来てくれと、ボロボロの地図を渡された。
その地図の★が指し示す場所まで行ってみると、古い洋館が建っていた。
ハテナと思いながら、門を開けると、少女が漆黒の瞳でこちらを見つめていた。
少女に案内されたのは、階段だった。

ミルクで磨いているであろう、その階段を、一段づつ上っていく。

2002年4月16日火曜日

月光密造者

なにやらポンプのような機械で、月光を採取している者がいた。
そのまま様子を窺っていると、集めた月光の瓶にスポイトで薬?を垂らしている。
すると突然、男は光に包まれた。
咆哮が聞こえ、目を凝らすと、そこには満足そうなWolfmanが。

2002年4月15日月曜日

雨を射ち止めた話

なかなか止まない雨をどうにかしたいと、試しに矢を空に向けて放ったら雨雲が、ヒエーと音を立てて粉々になった。
すぐに雨が止んだが、かわりに金平糖が降ってきたので、シャリシャリと音を立てながら爽快な気分で家に戻った。

2002年4月14日日曜日

なげいて帰った者

前の晩、月がミルク色に霞んでいたのでホットレモネードを無理に飲ませたが、お月様は納得せず、ブツブツと歎いて帰っていった。

レモネードの効果はわからない。
その晩は重い雨が降ったから。

2002年4月13日土曜日

ポケットの中の月

月は眠っている間、ポケットに入っているらしい。
そのポケットの中はどんな心地なのか、
ポケットとはどういう代物なのか、
どうやってポケットに入るのか、と色々に尋ねてみたが、
お月様はただただ黄色くなって何も答えなかった。

2002年4月12日金曜日

霧にだまされた話

霧深い早朝。
ぼんやりと見える前を歩いていた人についていったら、いつの間にか知らない場所を歩いていた。
「参ったなあ……」
とつぶやいたら、
「霧の日は、もうひとつの世界と繋がる道ができるんだよ。ちょうど、今朝みたいにね……」
振り返って、そう言った前の人は、深紅の瞳をしていた。

2002年4月11日木曜日

キスした人

お月様が珍しく悩んでいるので、理由を訊いてみると
「月にキスしたい、という人がいる」という。
「いいじゃないか、キスくらい。それは誰なんだ?」
「大勢だよ。会う人みんな、ってくらい」

数日後、「とうとうキスされてしまった!」と言ってきた。
「あんまりたくさんの人が集まるので、クジ引きさせた」
「へえ、で、その幸運は誰に降りたんだ?」
「…小さな男の子だったよ!」

2002年4月10日水曜日

押し出された話

庭に、大きな箱が置いてあったので不審に思い、開けてみたら、モワモワと黒い霧が広がって箱の中に吸い込まれてしまった。
箱に入った途端、今度は四方八方からギュウギュウと押し出された。
箱から出て見ると、大きいと思った箱は、手のひらに乗るほど小さかった。
気がつくと、とっくに日は沈んでいた。

2002年4月9日火曜日

はねとばされた話

流星の降る中で散歩していたら、フワリと身体が浮いて部屋の真ん中に墜落した。
身体中に黄いろい粉と氷の粒がついていた。
シャワーを浴びると黄色い粉は煙になって消えた。

2002年4月8日月曜日

突き飛ばされた話

工事中のマンホールに突き落とされた。
突き飛ばされて、サングラスの男にぶつかった。
バシン!また背中を押された。
「今度はなんだよ!」

「やあ、いらっしゃい」
月が目の前で笑った。

2002年4月7日日曜日

黒猫のしっぽを切った話

黒猫がついてくるので、ミルクをやったら、みるみるしっぽが伸びて、ついに月に届いてしまった。
恐る恐る鋏でしっぽをパチン!と切ったら、黄いろい粉が舞い上がった。
「あァ、苦しかった!」
と月が叫ぶと、粉はみんなホーキ星になってあちこちへ飛んでいった。

2002年4月6日土曜日

SOMETHING BLACK

〈黒い何か〉が言った。
「ちょっと失礼して調査させてください。イヤ、調査と言ってもごく簡単なものでしてね」
〈黒い何か〉は拡がって、縮んだあと、こう言って消えた。
「では、良い日常を!」

2002年4月5日金曜日

IT'S NOTHING ELSE

S氏は言った。
「私が生まれる前?なんにもなかったんだ、ナンニモ!」

2002年4月4日木曜日

ある晩の出来事

徹夜で机に向かっていたある晩。
うたた寝をしていたら、ガンガンと揺すられ、部屋が明るくなったかと思うと声がした。
「おい、そんなことしてないで、いっしょに遊ぼうぜ」
そして、蹴飛ばされ、殴られ、踊らされた。

2002年4月3日水曜日

月光鬼語

三日月の晩だった。

しかし、光り輝く棒を持っていたため、満月の如く明るい晩だった。

お月様は、傍目にもわかるほどごきげんだった。

男が独り言ごちながら、うろうろしていた。

「どこだ、俺の大事な…あれがないと…」

彼の影の頭には二本の角!

2002年4月2日火曜日

A CHILDREN'S SONG

ねえ、おつきさま

どうしてついてくるの

ねえ、おつきさま

おつきさまってあしがはやいんだね

ねえ、おつきさま

おつきさまっておいしい?