2023年7月12日水曜日

門番 #文披31題 day12

引っ越した家には観音開きの門扉があった。左右の門扉に小さなシーサーが乗っている。沖縄では屋根にいることが多いのに、なぜ門扉なのだろうと思っていたが、後にわかった。不審な人物が来ると大きくなり、怖い怖いと泣きながら家の中に逃げ込んでくるのだ。(120字)

2023年7月11日火曜日

飴色 #文披31題 day11

ポケットに入れっぱなしだった飴が小袋の中で溶けてぺちゃんこになっている。左手の小指の爪と同じ透き通った青緑色。青りんご味のこの飴が一等好きだ。だから左手の小指の爪は青りんご飴になった。いつでも舐められるからポッケの飴のこと忘れてたんだな。(119字)

2023年7月10日月曜日

ぽたぽた #文披31題 day10

 「お水を夏に返したい」と言って、子は室外機から落ちる水滴を一番高価なグラスに溜めている。エアコンの中を伝ってきた水は意外なほど澄んでいてキラキラと輝いている。子としゃがみこんでグラスに水が溜まるのを見つめる。汗が流れ落ちるのも構わずに。(118字)

2023年7月9日日曜日

肯定 #文披31題 day9

 「当然だ」「仰る通り」どこで覚えたのか我が家のペットたちの――多くは鳥やロボットだ――相槌は常にこんな調子だ。
「つまらん」と口に出すと一斉に「その通り!」 
「もう嫌だ、辛抱堪らん」と叫べば「尤もだ!」 
お手上げだ。「そうだね」と呟き続けよう。(119じ)

2023年7月8日土曜日

こもれび #文披31題 day8

赤ん坊の私は樹の下で眠っていた。私はそこで拾われ、その時の模様のまま大人になった。左頬の葉の形がくっきりわかる影と、右の胸から肩に向かってすらっと伸びた枝の影が特に気に入っている。私が拾われた場所は今、駐車場だ。形見は葉が一枚だけ。(116字)

2023年7月7日金曜日

洒涙雨 #文披31題 day7

一年ぶりの妻は涙脆くなっていた。逢えたと言っては泣き、乾杯をしては泣き、接吻しては泣く。あんまり泣くのが可笑しくて泣く。早く泣き止ませないと、どこかで洪水になるぞと焦る私に構いもせず、もうお別れの時間だと泣く。退屈した牛も欠伸をして泣く。(119字)

2023年7月6日木曜日

アバター #文披31題 day6

タイムトラベルで我が家に滞在中の先祖、インターネットやオンラインゲームをやってみたいがアバターを作るのは畏れ多くてできぬと宣う。曰く、化身を作ってよいのは神仏だけだと。大昔からやって来ておいて何を言うのだ、あんたはここでは神仏同然だ。(117字)