2006年6月12日月曜日

指輪が香る

ブッと葡萄の種を出したら、輝く紫色の粒だった。
「アメジスト?」
と呟くと、それはいっそう輝いた。
「なぜ、こんなところに?」
と聞くが、さすがにそれには答えない。
私は葡萄の種だったアメジストを水で洗った。
洗っても洗っても葡萄の香りは消えなかった。

アメジストは指輪にした。私の手が動くとアメジストが香る。
レジでお金を払えば、店員は不思議な顔した。
子供は喜んだ。「ブドウのにおいだ」

恋人は唇にキスしなくなった。
犬のように私の手を舐め回す恋人を見下ろしながら考えた。
指輪ではなくネックレスにすればよかったかしら、
それともピアスにすればよかったかも。
悔しいので指輪を唇で挟んでキスをねだる。
葡萄の香りが鼻腔を擽る。
いつのまにか私は夢中で指輪をしゃぶっていた。

緑の傘

老人はあざやかな緑の傘を差して歩く。雨の日も、晴れの日も。
「どうして傘を差してるのさ?こんなにいい天気なのに」
と若者に問われて、老人は皺をさらに深くして笑った。
 次の春、老人はすでにこの世にはいない。だが、老人の歩いた道には色とりどりの花が咲いている。老人の歩みそのままに、小さな花がぽつりぽつり。
 花が途切れたところに、老人が差していた緑の傘はあった。柄には札が付いている。
「あなたの最期の花道、作ります」

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500文字の心臓 第59回タイトル競作投稿作

2006年6月11日日曜日

小さな錬金術士

「金はまだ誰も作ったことがない。作り方もわからない。だが菫星石の作り方は、はっきりわかっている。教えて欲しいか」
と錬金術士は言った。子供は目を輝かせた。
「名前の通りだ。すみれの花に星を食べさせればいい」
錬金術士は続ける。
「お前は空の星を取れるか? すみれの花の口はどこにあるか知っているか?」
子供はニコッと笑った。

2006年6月10日土曜日

砂漠

ターコイズのペンダントは、砂漠に到着した途端に大騒ぎを始めついに鎖を切って跳んで行った。
しばらく跳ね回ったターコイズは、さらさらと砂漠の砂に埋まっていく。
どうしよう、お気に入りのペンダントなのに。
「気が向いたら帰ってくるさ」とラクダが慰める。

2006年6月7日水曜日

口封じ

「私はヘタマイト。異星から来た」
とヘマタイトは言った。地球上の鉱物のくせに何をおっしゃる。
「ヘマタ・イトはヘ・マタイト系第三惑星で、ヘマタ・イトを構成するのがヘマタイ・ト……」
ヘマタイトは私の手に弄ばれながらも、延々と喋っている。
黒光りしてすべすべしたヘマタイトは、重みがあり手の中で転がすのが、楽しい。
「神のヘマタイトから数えて私は2396代目、正真正銘の由緒正しいヘマタイトの血が……」
血なんか流れてないだろう、鉱物なんだから。
私はおしゃべりなヘマタイトに飽きてきた。
赤い油性ペンでヘマタイトに唇を描いた。そこに口紅を塗ってやった。
おかげで、鉱物とは思えないおしゃべりなヘマタイトはすっかり黙ったけれど赤い唇を輝かせるヘマタイトはやっぱり鉱物らしくない。

2006年6月5日月曜日

想いの色

あなたに恋焦がれるほどに、胸元に揺れるローズクォーツはばら色を濃くするから
ますます私の頬は朱くなる。

2006年6月1日木曜日

睨めっこ

タイガーズアイが付いた鏡が誕生日に届いた。
古ぼけたエスニックな枠に丸いタイガーズアイが二つ埋め込まれている。
鏡の中の私に向き合おうとすると虎の目がギロリとこちらを睨む。髪のセットもままならない。
やがて虎の目は、鏡に向き合っていない時にも、私に視線を寄越すようになった。
力強いその視線に負けじと、私も睨み返す。
ある時キッと睨み返すと、虎の目はふにゃりと笑った。
私は鏡に駆け寄った。そこには、三十男の自分ではなく褐色の瞳の少女が映っていた。