2012年10月22日月曜日

オレンジ色の人

「授業のノート、貸して欲しいんだ。先週、休んじゃって」


ノートを借りるという口実で、いつも前の席に座る彼女に話しかけた。


彼女はあっけらかんとした口調で「いいよ。ちゃんと来週、返してね?」と言ってノートを貸してくれた。


彼女のノートは、全てオレンジ色のペンで書き込まれていた。板書はもちろん、教授の言葉まで書き留めてあった。


オレンジ色の文字は、あまりにも眩しく、僕は自分のノートに書写すのに、ずいぶん苦労した。


それでもノートから彼女のことを少しでも知ろうと、いつになく丁寧に写したのだった。


約束通りノートを返す日が来た。


「どうもありがとう。すごく丁寧に書いてあって助かったよ」


と言う僕に、彼女は頬をオレンジに色に染めて興奮気味に言った。


「ノートが読めたのね?」


字がオレンジ色だったけど、何か意味があるの? と戸惑いながら訊く。


「私のノートの文字が読めた人は、初めて! 嬉しい!」


と、ギュっと抱きついてきた。


彼女の髪から、爽やかなオレンジの香りがする。