「授業のノート、貸して欲しいんだ。先週、休んじゃって」
ノートを借りるという口実で、いつも前の席に座る彼女に話しかけた。
彼女はあっけらかんとした口調で「いいよ。ちゃんと来週、返してね?」と言ってノートを貸してくれた。
彼女のノートは、全てオレンジ色のペンで書き込まれていた。板書はもちろん、教授の言葉まで書き留めてあった。
オレンジ色の文字は、あまりにも眩しく、僕は自分のノートに書写すのに、ずいぶん苦労した。
それでもノートから彼女のことを少しでも知ろうと、いつになく丁寧に写したのだった。
約束通りノートを返す日が来た。
「どうもありがとう。すごく丁寧に書いてあって助かったよ」
と言う僕に、彼女は頬をオレンジに色に染めて興奮気味に言った。
「ノートが読めたのね?」
字がオレンジ色だったけど、何か意味があるの? と戸惑いながら訊く。
「私のノートの文字が読めた人は、初めて! 嬉しい!」
と、ギュっと抱きついてきた。
彼女の髪から、爽やかなオレンジの香りがする。