フランツ少年は失せ物を探していた。
でも、町に落ちているのはチョコレートばかり。いちいち拾って帰ったら、あっという間に台所にチョコレートの山が出来た。
「フランツ、このチョコレートをどうにかして頂戴」
ママは呆れ顔を通り越して、涙目である。
フランツ少年は、覚えたてのザッハトルテをせっせと作る。来る日も来る日もチョコレートは拾えるが、失せ物は見つからない。そして、作っても作ってもザッハトルテである。
ザッハトルテが出来上がると、フランツは交番へ向かう。
「落し物を拾ったんです」
お巡りさんは、「拾得物」の札をザッハトルテに貼り付けながら言った。
「きみとよく似た子が来ているよ」
お巡りさんの視線の先には、「遺失物」の札のついたフォンダン・オ・ショコラを抱えた少女が座っている。
++++++++++++++
コトリの宮殿 スイーツ超短編掲載作 *6.ザッハトルテ