そこで若奥さんは、スープを温め直すためにと火に油を注ぎ、瞬時に沸騰させた。
なんて過激なプールの若奥さん。
There was a Young Lady of Poole,
Whose soup was excessively cool;
So she put it to boil
By the aid of some oil,
That ingenious Young Lady of Poole.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
There was a Young Lady of Poole,
Whose soup was excessively cool;
So she put it to boil
By the aid of some oil,
That ingenious Young Lady of Poole.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
フランツ少年は失せ物を探していた。
でも、町に落ちているのはチョコレートばかり。いちいち拾って帰ったら、あっという間に台所にチョコレートの山が出来た。
「フランツ、このチョコレートをどうにかして頂戴」
ママは呆れ顔を通り越して、涙目である。
フランツ少年は、覚えたてのザッハトルテをせっせと作る。来る日も来る日もチョコレートは拾えるが、失せ物は見つからない。そして、作っても作ってもザッハトルテである。
ザッハトルテが出来上がると、フランツは交番へ向かう。
「落し物を拾ったんです」
お巡りさんは、「拾得物」の札をザッハトルテに貼り付けながら言った。
「きみとよく似た子が来ているよ」
お巡りさんの視線の先には、「遺失物」の札のついたフォンダン・オ・ショコラを抱えた少女が座っている。
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コトリの宮殿 スイーツ超短編掲載作 *6.ザッハトルテ
一歩町に出れば、子供らがまとわりついてくる。
「キャンディーくれよ、おっちゃん」と、子供らは歌う。
ある子は、ラッパを吹きながら、別の子はフライパンを叩きながら、またある子は踊りながら。
そうして楽団のような子供らを引き連れて、俺は飴岩山に登るのだ。
ツルハシでほら、飴の岩を叩けば、大歓声。
リュックサックにおみやげ詰めな。弟妹にも分けてやるのだぞと歌い聞かせて、下山する。
俺はツルハシを舐めながら、大声で歌う。
「そこにいる」が底に居る。そこの底だ。そこそこの底だ。
そこで提案だ。底のほうに向かって話しかけるがいい。
「そこにいる?」
「ああ、そこにいるはここにいる。箱が好きだが、箱はないから底にいる」
こそこそ話のような小さな声が聞こえた。
僕はこれから、そこにいるに会いに行くから、ここからそこに行くよ。
子供が箱庭を作っている。
「これは何?」
「これは、佐藤さんちの梅の木」
「これは何?」
「これは、鈴木さんちの浜辺」
「これは何?」
「これは、松本さんの家」
それらは赤や青や黄色の、形容しがたい物体だったが、子供がそう言うのだから、そうなのだろう。
最後に、大きなピーマンを作って真ん中に置いた。それは、誰が見てもピーマンだった。今日の夕御飯は、子供の嫌いなピーマンの肉詰めなのを、私はまだ子供に伝えてはいない。
出来上がった箱庭を、子供はダンボール箱に仕舞った。
「これは、僕の胃袋」
夜中、そっと覗いてみると、箱庭は、滅茶苦茶になっていた。
翌日、子供は腹を壊し、恨めしそうに「お母さん、覗いたでしょう」と言った。