少女は素早くノートに書き記す。視線をノートに落とすことなく、小さな文字できっちりと文字を綴っていく。あまりにも小さな文字で読むことはできないけれど、僕のまばたきを、僕の呼吸を、すべて書き残しているのだ。いつだかこっそり教えてくれた。
少女は僕の何もかもを見逃すことはない。だから僕たちは四六時中見つめ合っている。
「あなたは透明な檻の中にいるの。檻の中の物が檻の外の者に触れることはできない」
僕がそっと少女の頬に手を伸ばそうとすると、彼女はそう言った。けれど、僕はそれを無視して少女に触れた。抱き寄せる。
透明な檻なんて、初めからないんだよ。
僕がそう耳元で囁く間も、少女はペンを動かし続ける。
僕の囁きがペンを走らす音にかき消される。抱きしめる。小さな文字が歪む。もっと強く抱きしめる。罫線からはみ出す。
それでも少女は観察する。その視線の先に、僕はいないのに。
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