森の中にぽつんとアイスクリームスタンドがあった。私と恋人は歩き疲れていたので、アイスクリームはとても魅力的だ。
「バニラアイスを下さい」と言うと、赤いキャップの若者はちょっと困った顔をして
「きつね味しかないのです」
と言った。
きつね味? 私と恋人は顔を見合せたけれど、私たちはとても疲れていたから、どうしても甘い物が食べたかった。
「きつね味ってどんな味なのかしら」
「きつね味のアイスクリームだから、きつねの味です」
「おいしいの?」
「そりゃあ、もう、とっても!」
「それじゃ、きつね味を二つ下さい」
赤いキャップの若者はとても嬉しそうな顔で、コーンからはみ出しそうなくらいにきつね色のアイスクリームを盛りつけた。
きつね味のアイスクリームがきつねの味かどうかはよくわからない。だって、きつねを食べたことがないんだもの。
その後も森を歩き続けたのだけれど、きつねを見掛ける度に恋人が「ちょっと味見してみる?」と言うので、段々その気になってきた。きつね味のアイスクリームは、そりゃあ、もう、とってもおいしかったから、きっと生のきつねはもっとおいしいと思うのだ。
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