扉を開けると、強い芳香が押し寄せる。
初めて訪れた友人Mの部屋には、二十センチから六十センチほどの骨格標本が壁一面の大きな棚に整然と並べられていた。
「君、これは一体……。とても美しいな」
骨格標本の並んだ棚は、ブラックウォルナットで出来た重厚な造りで、小さな骸骨が一層白く輝いて見える。
「どうだい? きれいだろう」
私が圧倒されているのを見て、Mは満更でもない様子だ。同じくブラックウォルナットのデスクには、作業用のマットと、様々な刃物や道具が几帳面に並んでいる。
「素晴らしいじゃないか、君にこんな趣味があるとは知らなかったよ」
「気味悪がる奴もいるからね、大学ではほとんど話したことがなかった。こんなに喜んでくれるとは、君を呼んで正解だったな。遠慮なく見たまえ」
標本には細かいデータを記したキャプションが付いている。名前、生年月日、死亡日時、死亡原因。すべて十代の少女だ。
一部の骨が欠損した標本や、骨折の跡などが残っているものもある。触ってもいいか、とMに断ってから、左足のない「マーガレット」の頭蓋骨を指先でそっと撫でた。
「見れば見るほどよく出来ている。一体どうやって作ったのかい?」
「これらは確かに、僕の手によるものだ。だが、作ったというと語弊があるな」
Mはそう言うと、ちらりとデスク脇の紙袋に目を遣った。そこには大小様々な少女を模した人形がいた。目が合った西洋人形は、片頬が割れ、闇を覗かせている。慌てて目を逸らす。
「以前、医学部の友人を連れてきたら、『この部屋は解剖室と同じ匂いがする』と言って出て行ったよ」
腐った実芭蕉を思わせる匂いを、胸一杯に吸い込む。
ビーケーワン怪談投稿作