2009年7月20日月曜日

トリコ

 鳥籠を形見として手に入れたのは、祖父が死んでまもなくのことだった。祖母も初めて見るという鳥籠は竹で出来たドーム型で、繊細に編まれて美しかった。簡素と効率を好んだ祖父と、華奢で麗しい鳥籠はどうにも似合わないが、死んで初めて垣間見た祖父の一面が染み入り、大切にすると心に決めた。早速、小鳥を飼うことにする。鳥籠に鳥がいないのは、やはり寂しいと思ったのだ。
 十姉妹を一羽、飼うことにした。鳥が入った鳥籠は、一層美しく見えた。祖父もこうして鳥籠を眺めてうっとりとしたことがあるのかもしれない。
 明くる朝、十姉妹は鳥の姿ではなくなっていた。小さな少女が一人、止まり木に腰掛けている。ふらふらと足を揺らして。
「あなたが飼い主なの?」
 黒目がちな目が真直ぐにこちらを見据える。
「そういうことになる、と思う」
 僕は鳥を飼い始めたつもりなのに、少女の食事を作り、服を着せ、髪を梳かし、身体を拭くことに明け暮れた。徐々に要求は高まる。ほんの僅かしか食べないのに、高価な食材でないとそっぽを向く。服は華美を極め、お姫様のような姿になった。女の子の人形遊びだってこんなにはしないだろう。そして、僕がどんなに夢中になろうと、彼女はやはり相変わらず鳥だった。鳥籠には抜け落ちた羽と、鳥の糞が溜まっていく。
 羽の抜け落ちは、半年を過ぎる頃から尋常でない量に増えた。同時に美貌も衰え始め、豊かな髪は艶を失い、眸は濁った。
 ついに止まり木から墜落した少女は、十姉妹の姿に戻った。鳥籠に彼女を納めた日から十ヶ月と二十四日目のことだった。僕は庭に墓を作り、小さなドレスに包んだ十姉妹を埋めた。
 そんなことをもう四半世紀も続けている。庭の鳥の墓は、六十七になった。

(705字)

第七回ビーケーワン怪談大賞に未投稿作品

投稿作は
落し物
骨格標本のある部屋
ランデヴー

どうにかこうにか、今年も三作出せました。トリコは、最初に書いて結局投稿しなかったものです。
何がいけないってんじゃなくて、二作目に出した「骨格標本のある部屋」と一番似た雰囲気だから。「骨格標本」と、どちらかをやめにしようと思って、こっちをやめた、ただそれだけです。

今年は、なんというか、無意識の意識とか、身の回りの人への思いやりとか慈しみとか(特に先に出した二作では、逆説的な描き方になっておるが)、そーいうものが書きたかったらしい。……と、四作並べて見渡してから気づくわけだけども。

最後に、投稿前に目を通してくれた友人たちにお礼を。ありがとー!大好きだ。
やっぱり、こまごまと具体的な感想を貰わずとも、一度人前に出すことによって、自分も客観的に読み直せるんだね。