2007年3月23日金曜日

チョコ痕

 日が落ちた町に細長くチョコ痕が続く。ビルの壁、街路樹の幹、ガードレール。人の目には茶色い汚れの筋にしか見えないそこを辿るのは、なめくじである。
 なめくじはチョコレートの香りに導かれ、一分の狂いなくチョコ痕を辿る。ほんのわずかこびりついたチョコ痕をきれいに舐め取り、引き換えに彼の粘液を残す。チョコレートを舐め取った後の粘液は、チョコレートと彼の体臭が混ざり合い、妙なる香りを発する。
それを嗅ぎつけた野良犬たちが、切なく吠える。
 歩道橋の手すり、横断歩道、チョコ痕は続く。なめくじが歩む。野良犬の遠吠えもしばらく続きそうだ。


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500文字の心臓 第65回タイトル競作投稿作
○7△1 正選王