2006年10月31日火曜日

忍者の憎まれ口

肉感的な大蒜が仁和寺で妊娠した。

2006年10月29日日曜日

恋知らず

生姜をすりおろす。
生姜の汁を耳に注すために。
彼の声が聞こえなくなるように。
耳を悪くしたいわけじゃない。
彼の声がずっと聞こえている。彼は今ここにはいないのに、彼の声でどうにかなってしまいそうになる。
生姜汁で、聞こえなくなるかわからないけど
冷蔵庫には生姜しか入っていなかったから。

2006年10月28日土曜日

至れり、尽くせり

家中、イタルトコロに苺がなるようになった。
本棚、炊飯器、蛍光灯、時計……。
私は見つけた苺をもいで、その場で食べた。便器になった苺も構わず食べた。苺が好物なのだ。しあわせだった。
だが苺は一か月もすると数が激減した。数日に一個食べられればいいほうだ。
あんなに毎日たくさんなっていた苺だのに。何がいけないのだろう?気温?肥料?
そもそも根も葉も無いのに突然実を付け始めた苺だ、何もわからないのだ。
それでも私はいてもたってもいられず、園芸用品店で大量の肥料を買ってきて、家中に撒きはじめた。

2006年10月27日金曜日

日記

巨峰の皮を剥いたら、売れない詩人がフルーツタルトを食べていた。

2006年10月25日水曜日

見渡す白菜

白菜を買って家に帰る。
家に着くなり「眼鏡、眼鏡」と白菜が騒ぐので、母の老眼鏡を乗せたら「違う! オレはそんなにトシじゃない」と言うから仕方なく私は掛けていた眼鏡を白菜に貸した。
「あーよく見える」
私は見えない。
「さて、オレは鍋にでもなるのかね?」
そうだ、と応えると白菜は満足げに頷き、鍋になる前に高いところにあがりたいという。
脚立のてっぺんに鎮座した白菜は、感慨深そうだ。
そろそろ眼鏡を返して欲しい。

2006年10月24日火曜日

ひそひそ話

双子のさくらんぼが内緒話をしている。
でも声が小さすぎて聞こえない。
二ついっぺんに頬ばると、話が聞こえてきた。
明日の天気と隣のおばさんの噂話。

2006年10月23日月曜日

キャベツを食べ損ねたレオナルド・ションヴォリ氏

レオナルド・ションヴォリ氏がキャベツにフォークを突き刺して丸噛りしていると、その音を聞き付けて夥しい青虫がやってきた。
ションヴォリ氏が青虫の数を数えている間に、キャベツは全て青虫たちが平らげてしまった。

2006年10月21日土曜日

愚痴り合い

でかいゴボウがやってきて「きんぴらにしてくれ」という。
手に余るくらいの太さのゴボウで、いくらやってもささがきが終わらない。
「飽きてきた。疲れた。お前さんはきんぴらには不向きなのだ」
と言ったらさめざめと泣く。
丼に三杯もささがきのゴボウが出来たが、まだ終わらない。
そろそろ出て行ってくれないだろうか。

2006年10月19日木曜日

秋の空

ザルに干してあった切り干し大根が、不意の大風で飛んでいった。
秋の青空に舞い上がる切り干し大根、すぐに落ちてくるかと思ったら、どんどん飛ばされ流れていく。
追い掛けていくと縁側でひなたぼっこしている赤ちゃんの口に切り干し大根たちは飛びこんでいった。

2006年10月18日水曜日

まぼろしのブロッコリー

ブロッコリー山に登ったから、と隣のおばあさんに大量のブロッコリーをもらった。
あまりの量のブロッコリーを前に頭を抱えていると
何を嗅ぎ付けたか、ウサギがやってきてブロッコリーをわけてくれという。
好きなだけ持っていきな、と言うとウサギは大きな風呂敷を広げた。
結局、ウサギはほんの一欠けらだけ残して全部持っていった。
残った一欠けらを茹でて食べたら、とても旨かったので、ウサギにくれてやったことを後悔した。
隣のおばあさんにブロッコリー山の場所を聞きにいったが、ブロッコリー山のことも私にブロッコリーをくれたことも覚えていないという。

2006年10月17日火曜日

商売あがったり

焼き芋屋のおじさんが嘆いているので訳を聞いてみる。
「ジッポンにイッピキくらいの割合でサ」
なんのことやら、と思っていたら
サツマイモにそっくりなモツサマイマイというナメクジが出てくるのだった。

パセリ漏れ

台所仕事をしていると、天井からパセリのみじん切りがハラハラと落ちてきた。
「またか」
溜め息をつきながらも、ちょっとにやけている自分に気付く。
上の階に行ってチャイムを押す。返事も待たずにドアを開けて中に入る。途端にパセリの香りが強く鼻孔を刺激する。
「すいませーん! パセリが漏れてますよ~」
台所ではパセリのみじん切りに埋もれた酒井さんがいた。
わたしは、パセリ塗れの酒井さんを見るのが好きだ。
そして、しょげている酒井さんをパタパタと叩いてパセリを落とすのも好きだ。

2006年10月13日金曜日

矢印

とぼとぼと歩いているとフライドポテトが道に落ちているのに気がついた。落ちているというより置いてあると言ったほうがよいか。

僕は矢印に従おうと歩き出した。
一度振り返ると、矢印を犬が拾って食べている。
僕は近くのハンバーガーショップでフライドポテトを買い、矢印があった所に戻った。
慎重にポテトを選び、↑を作る。
僕は満ち足りた気分で家に帰った。

2006年10月12日木曜日

Apple in the sun

林檎が猫の上で気持ち良さそうに昼寝しているから、わたしもそっと屋根にのぼって寝転がった。
猫はチラと薄目を開けたけど、林檎は気がつかなかったみたい。
鰯雲がおいしそうだったから捕まえた。
後で焼いて猫と一緒に食べよう。
デザートは焼き林檎で。

2006年10月11日水曜日

ふかふかのかぶ

隣のおばあさんが、かぶを手で揉んだり握ったりしている。
滑らかなかぶはシワシワの手の中で、珠のように弾んでいる。
私はお腹を鳴らしながら、それを見ている。
しっかり揉まれたかぶは、すっかりテンテンが取れ、ふかふかになり食べ頃になった。
ふはふはしながら一口噛ると塩が利いて旨かった。

2006年10月10日火曜日

別れの日の記憶

「このセロリ、スジが残るな」
と言ってあなたが残したセロリの繊維は、薬指に結び付けた。
セロリと血の通わない薬指は次第に黒ずんでいったけれど、セロリの匂いはますます濃厚に、鮮烈に漂った。
何日かしてセロリは指からなくなったけれども
あなたが去ったあの日あの時あの瞬間の匂いは、しっかりと薬指に染み込んだ。

2006年10月8日日曜日

夜道は危険

茄子は夜の散歩が好きである。
その色ゆえ滅多に人に気付かれることはないが、運悪く忍者に見つかり音もなく切られる事件が時として起こる。
切られた茄子は忍者に連行され、多くの場合、味噌汁の具になる。

2006年10月6日金曜日

後引くおいしさ

もやしを鼻から吸い込んでいるおじいさんを見た。
スナック菓子でも食べるように、次から次へともやしを鼻に運んでいる。
スルッと吸い込まれたもやしはピクピク動く鼻に合わせてしゃくしゃく音を出す。
右の鼻の穴、左の鼻の穴。

 仕切りのある小さな箱に、これまた小さな毛糸玉が二つ入っている。ひとつは茜色の毛糸、もうひとつは藍色の毛糸。
 子猫が箱に近づいて二つの毛糸玉にちょっかいを出すと、それを待っていたかのように二色の毛糸はゆらゆらと立ち昇った。茜と藍は絡み合い、縺れ合い、ほんの一瞬靴下になりかけるが、すぐに解けてへなへなと箱の中に落ちた。
 子猫が箱を覗くと、もはや色は抜け薄汚れた羊毛の僅かなかたまりが二つあるだけ。しばらく小さな羊毛たちをつついていたが、満月に照らされた山の風に呼ばれると子猫は消えるように去った。

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MSGP2006 エクストラマッチ参加作品

2006年10月4日水曜日

何でもありの実

午後七時「梨が食べたい」と蟻がやってきた。
ともかく蟻を居間へ通し(踏み潰さないかと冷や冷やした)梨を出した。
一体どうやって梨を食べるのかと思っていると蟻は小さなストローを梨に突き刺してチウチウと吸いはじめた。
蟻の吸引力は強く、六時間後には梨はカスカスになっていた。
とはいえ、六時間も蟻が梨を吸う様子を夢中で見ていた私は、食事をするのも忘れ、すっかり寝不足だ。

2006年10月3日火曜日

滴るピーマン

白い皿にのったピーマンにそっと指を這わせていると、つやつやとした表面は萎びてきた。
それでも構わず指で撫でる。上から下へ、凹凸を確かめながら。
次第にピーマンは震えだし、ヒビが入り、中から汁が滲み出してきた。
私はその汁を吸うために、ヒビに口付ける。
このやり方でなければ、私はピーマンを食べることができないのだ。

Snapdragon

ハロウィンをするのでカボチャが欲しいとクマが言う。
煮物にするはずだったカボチャを背負わせた。
ハロウィンをするのでカボチャが欲しいとウサギが言う。
ランタンにするはずだった小さなカボチャを背負わせた。
ハロウィンをするのでカボチャが欲しいとリスが言う。
花屋で買った小さな小さなペポカボチャを背負わせた。
明日は干しブドウを買いに行かなくては。

スナップドラゴンはハロウィンの時にやるゲームです。