黒猫の瞳は緑色だ。
だが、生まれた時からそんな色をしていたわけではない。元々はくすんだグレーの目をしていた。
黒猫がまだ子供の時、指輪を見つけた。大きなエメラルドがついていた。
黒猫は、エメラルドが気に入った。自分に似合うだろうと思った。
「それで、飲みこんじゃったの? ヌバタマ」
少女は驚き呆れる。
〔おいしかった。キナリも食べるといい〕
黒猫の瞳を緑色に変えたエメラルドの指輪は今、少女のポケットに入っている。
2006年6月30日金曜日
2006年6月27日火曜日
2006年6月26日月曜日
2006年6月24日土曜日
2006年6月23日金曜日
2006年6月21日水曜日
2006年6月19日月曜日
ソーダ
娘の髪はソーダライトのようなまだらの群青色をしていた。
どんな触り心地だろう、どんな匂いだろう、ずっと眺めていたい。
「少しその毛を分けてはくれないか?」
気付くと掠れた声で言っていた。
我ながら信じられない頼み事である。気味の悪い依頼に、娘は顔色一つ変えなかった。
娘はぐっと髪から毛束を握り取り、鋏でジョキジョキと切った。
「そんなにたくさんでなくてもいいのに」
と言いおうとしたが、娘が鋏を動かす光景に見とれて声が出ない。
差し出された髪の毛を受け取ろうと伸ばす手が震える。
私の手の平に載った群青色の毛は、シュワシュワと泡を立てて溶けた。
私は慌てて手の平を舐める。
どんな触り心地だろう、どんな匂いだろう、ずっと眺めていたい。
「少しその毛を分けてはくれないか?」
気付くと掠れた声で言っていた。
我ながら信じられない頼み事である。気味の悪い依頼に、娘は顔色一つ変えなかった。
娘はぐっと髪から毛束を握り取り、鋏でジョキジョキと切った。
「そんなにたくさんでなくてもいいのに」
と言いおうとしたが、娘が鋏を動かす光景に見とれて声が出ない。
差し出された髪の毛を受け取ろうと伸ばす手が震える。
私の手の平に載った群青色の毛は、シュワシュワと泡を立てて溶けた。
私は慌てて手の平を舐める。
2006年6月18日日曜日
2006年6月12日月曜日
指輪が香る
ブッと葡萄の種を出したら、輝く紫色の粒だった。
「アメジスト?」
と呟くと、それはいっそう輝いた。
「なぜ、こんなところに?」
と聞くが、さすがにそれには答えない。
私は葡萄の種だったアメジストを水で洗った。
洗っても洗っても葡萄の香りは消えなかった。
アメジストは指輪にした。私の手が動くとアメジストが香る。
レジでお金を払えば、店員は不思議な顔した。
子供は喜んだ。「ブドウのにおいだ」
恋人は唇にキスしなくなった。
犬のように私の手を舐め回す恋人を見下ろしながら考えた。
指輪ではなくネックレスにすればよかったかしら、
それともピアスにすればよかったかも。
悔しいので指輪を唇で挟んでキスをねだる。
葡萄の香りが鼻腔を擽る。
いつのまにか私は夢中で指輪をしゃぶっていた。
「アメジスト?」
と呟くと、それはいっそう輝いた。
「なぜ、こんなところに?」
と聞くが、さすがにそれには答えない。
私は葡萄の種だったアメジストを水で洗った。
洗っても洗っても葡萄の香りは消えなかった。
アメジストは指輪にした。私の手が動くとアメジストが香る。
レジでお金を払えば、店員は不思議な顔した。
子供は喜んだ。「ブドウのにおいだ」
恋人は唇にキスしなくなった。
犬のように私の手を舐め回す恋人を見下ろしながら考えた。
指輪ではなくネックレスにすればよかったかしら、
それともピアスにすればよかったかも。
悔しいので指輪を唇で挟んでキスをねだる。
葡萄の香りが鼻腔を擽る。
いつのまにか私は夢中で指輪をしゃぶっていた。
緑の傘
老人はあざやかな緑の傘を差して歩く。雨の日も、晴れの日も。
「どうして傘を差してるのさ?こんなにいい天気なのに」
と若者に問われて、老人は皺をさらに深くして笑った。
次の春、老人はすでにこの世にはいない。だが、老人の歩いた道には色とりどりの花が咲いている。老人の歩みそのままに、小さな花がぽつりぽつり。
花が途切れたところに、老人が差していた緑の傘はあった。柄には札が付いている。
「あなたの最期の花道、作ります」
********************
500文字の心臓 第59回タイトル競作投稿作
「どうして傘を差してるのさ?こんなにいい天気なのに」
と若者に問われて、老人は皺をさらに深くして笑った。
次の春、老人はすでにこの世にはいない。だが、老人の歩いた道には色とりどりの花が咲いている。老人の歩みそのままに、小さな花がぽつりぽつり。
花が途切れたところに、老人が差していた緑の傘はあった。柄には札が付いている。
「あなたの最期の花道、作ります」
********************
500文字の心臓 第59回タイトル競作投稿作
2006年6月11日日曜日
2006年6月10日土曜日
2006年6月7日水曜日
口封じ
「私はヘタマイト。異星から来た」
とヘマタイトは言った。地球上の鉱物のくせに何をおっしゃる。
「ヘマタ・イトはヘ・マタイト系第三惑星で、ヘマタ・イトを構成するのがヘマタイ・ト……」
ヘマタイトは私の手に弄ばれながらも、延々と喋っている。
黒光りしてすべすべしたヘマタイトは、重みがあり手の中で転がすのが、楽しい。
「神のヘマタイトから数えて私は2396代目、正真正銘の由緒正しいヘマタイトの血が……」
血なんか流れてないだろう、鉱物なんだから。
私はおしゃべりなヘマタイトに飽きてきた。
赤い油性ペンでヘマタイトに唇を描いた。そこに口紅を塗ってやった。
おかげで、鉱物とは思えないおしゃべりなヘマタイトはすっかり黙ったけれど赤い唇を輝かせるヘマタイトはやっぱり鉱物らしくない。
とヘマタイトは言った。地球上の鉱物のくせに何をおっしゃる。
「ヘマタ・イトはヘ・マタイト系第三惑星で、ヘマタ・イトを構成するのがヘマタイ・ト……」
ヘマタイトは私の手に弄ばれながらも、延々と喋っている。
黒光りしてすべすべしたヘマタイトは、重みがあり手の中で転がすのが、楽しい。
「神のヘマタイトから数えて私は2396代目、正真正銘の由緒正しいヘマタイトの血が……」
血なんか流れてないだろう、鉱物なんだから。
私はおしゃべりなヘマタイトに飽きてきた。
赤い油性ペンでヘマタイトに唇を描いた。そこに口紅を塗ってやった。
おかげで、鉱物とは思えないおしゃべりなヘマタイトはすっかり黙ったけれど赤い唇を輝かせるヘマタイトはやっぱり鉱物らしくない。
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