母は耳飾りを持って生まれた。センリョウの実のような小さな赤い飾りだ。耳飾りは、子供の頃は緑色だったらしい。母が恋を知ると色づき、父と出会うと真っ赤になり艶を増した。母の耳飾りは、いつも美しかった。父が亡くなってからは透明になり、今はロッキングチェアで寝る母の耳で静かに揺れている。
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三席受賞
星々 九月の星々結果発表
母は耳飾りを持って生まれた。センリョウの実のような小さな赤い飾りだ。耳飾りは、子供の頃は緑色だったらしい。母が恋を知ると色づき、父と出会うと真っ赤になり艶を増した。母の耳飾りは、いつも美しかった。父が亡くなってからは透明になり、今はロッキングチェアで寝る母の耳で静かに揺れている。
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三席受賞
星々 九月の星々結果発表
虚と実の合間には、薄い皮がある。私はそれに穴を空ける。びりびりと破ることもあれば、針で突くだけのこともある。虚は怠そうに穴を通り、実へと流れ込む。多くの虚が流れると均衡を崩す。世が乱れ過ぎぬよう頃合いを見計らって膜の穴に薬を塗る。だが、最近は膜の治りが悪い。虚が空になりつつある。
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予選通過
「柿の実から錆が出るのだ」と困り顔で言う。「干しても焼いても金気がする」と心底困った顔をする。「そんな柿、無理して食うことないだろ」と言えば、「食べないわけにはいかんのだ、爺さんの遺言で」 仕方なく柿の木の根元を掘ってみれば、錆びた古宇宙船が出てきた。爺さんが乗ってきた船だとさ。
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予選通過
「クルトンがたくさん入ったスープを食べるのが夢でした」と料理教室の自己紹介で言うと、和やかだった雰囲気が変わった。食に関心が薄い家庭で育った私を見兼ねた叔父が外食に連れ出してくれた日、ポタージュのクルトンに私は感激したのだ。浮き実は少量と知ってからも、クルトンどっさりは譲れない。
成功は唐突にやって来る。禁断の果実が生る樹を長年の研究により蘇らせ、初めて実った時、研究者は実験とは関係ない実務処理に追われていた。結実の瞬間を目にすることができなかった研究者は、ところ構わず当たり散らし、実に多くの機材を破壊し、衣服を脱ぎ捨て次々実る禁断の果実を貪り続けている。