「ずっと、ここに、住んでいる者は、ごく、当たり前に、速度を、変えています」
穏やかな人は、ゆっくり、ゆっくり、お茶を注いだ。糸のように細く、お茶がカップに注がれている。
「こうして、ゆっくり、話したり、ゆっくり、動くことで、調整、しているのです」
外的な速度と、内的な速度
受動的な速度と、自発的な速度
というような言葉を思い浮かべる。
「バランスを、取ろうと、しているのですね」
「はい。ただ……それが、科学的に、正しいこと、なのかは、わかりません。習慣、のような、文化、のような、暮らしの知恵、のような、そういう類の、もの、です」
穏やかな人はスッと表情を変えた。
「例えばこうして早く喋ることだってできるのです。しかし一日中この速度で話していると一日が瞬く間に終わってしまうのです。ほら外を御覧なさい」
地下の家にぽかりと開いた天窓に、青い鳥が混乱した頃に昇った太陽は既になく、月が素早く横切った。