2014年1月26日日曜日

奇行師と飛行師16

「森は遠いのかい?」
と鯨怪人が尋ねると、駱駝の瘤姫はウインクした。「近道があるのよ」
砂埃がひどく前が見えない。息も吸えない。
歩みの遅い蝸牛男はついていくのに精一杯である。粘液に砂がついて、不快極まりない。
もうこれまでだ、と蝸牛男が思った時、瘤姫の声が聞こえた。「着いた!」
さっきまでの砂漠とは打って変わった景色が広がっていた。広葉樹、木々を揺らす風。
「どうやってここまで来たのか、さっぱりわからない」
蝸牛男がつぶやくと、瘤姫は蝸牛男についた砂粒を鼻息で吹き飛ばしながら言った。
「あら、わからなかった? 砂漠を潜って来たのよ? 昔、蟻地獄男爵に教えてもらったの」
「誰だその、男爵っていうのは!」
鯨怪人が嫉妬で潮を吹く。