雪の上に、見慣れぬ足跡が残されていた。
鹿だの兎だの、ここいらにいる小獣の足跡よりもずっと大きく、もちろん人間のものでもなく、私はそれを見て「象」を思ったのだった。
足跡は大きな割に浅い。象が雪の上を歩いたら、もっと深い足跡になりそうなものだ。そんなことを考えながら、足跡を追って歩いた。
果たして、象が居たのだ。
象は、動物園でしか見たことがないが、アフリカゾウやインドゾウとは違うように思う。銀色によく輝く、雪の積もった晴れた昼間に実によく似合う象である。
そして、人語を話した。
「見つかってしまった」
象は照れくさそうに鼻をよじらせた。
「足跡を見たものだから」
「雪の上を歩いてみたかったのだ」
そうして私はしばらく銀色の象と遊んだ。背中に乗ったり、鼻を撫でたりした。
「そろそろ帰らなくてはいけないな」
と、象と私は呟いた。私は家に、象は空の向こうの銀色の森へ帰った。