2013年1月12日土曜日

海底の寝心地

乗っていた船が難破したのは、いつのことだったか。


船長は、最後まで船に残り、その船長を慕っていた僕も船に残った。


船長に、別れ際浮いていた何か(もはやそれが何かもわからなかった)を渡したことまでは覚えていて、それから僕は海底人になった。


山育ちのくせに、海への憧れが異常に強いことは、両親も訝っていたとはいえ、水中で生きられる身体だとは、もちろん知らなかった。


海底人になってからしばらくは、空気を吸っていないことに焦りを感じて海面に出てみたりもしたけれど、今は不用意に海面に出るようなことはしない。船に見つかったりしたら大事だからね。


海底では、ふかふかとやわらかい場所を探して、そこを家にした。暮らし始めてまもなく、人骨を見つけた。以前にも僕と同じような人がいたと思うと、ワクワクしたし自信も湧いてきた。ここを家とするのは間違いじゃないんだってね。


大きな海藻を身体に巻き付けて眠る。眠れない時は、ヒトデに話しかける。あれは案外おしゃべりで、聞き飽きない。