超短編
毎年、祖父が死んだ日になると、祖母は正気を取り戻す。
私はその日を待ち構えて、祖母とあれこれ話をしようとするが、「なんだか今日のあなたはずいぶんおしゃべりだねえ」とあしらわれてしまう。
祖父が息を引き取ったのは、午後16時18分だった。
祖母は、その時刻ぴったりになると、目を黒々とさせ、低い声で「時間だよ」と言う。
その声は、祖母の声であり、祖父の声であり、死神の声だと思う。
そうして、それを境にまた祖母の記憶は揺らめきはじめ、翌日には孫の顔も忘れてしまうのだった。