陶製のお人形が落ちて粉々になったとき、幼かった私はもう人形など手に入れないと決めた。
だが、両親は私の決意など露とも知らず、「これなら割れないから」とプラスティックの人形を買ってきた。
それは、よく見かける塩化ビニルの弾力ある人形とも、もちろん陶製の人形とも違う、どこか未来的というか、SF(SFという言葉はもっと後に知ったのだけれども)の世界に暮らしているような雰囲気の、少年の人形だった。
しかし、結局ほとんど遊ぶことはなく、人形は部屋に放りっぱなしになった
時が経ち、周りの女の子が芽生えたての恋心を語り始めても、私には好ましい男の子が現れなかった。なんとなく置いてけぼりの気分が続いていたとき、部屋で埃をかぶっていた人形と目があったのだ。
私は、人形の年頃に自分が追いついたのを知った。
一番お気に入りのハンカチを水で絞ってくると、洋服を脱がせ、彼の体を拭った。埃がこびりついていた顔もみるみるうちにツルツルになり、心なしか顔色もよくなったような気がする。
人形は存外に精巧な作りだった。両親がなぜこれを私に与えたのかと訝しみながら、なかなか彼の体を拭うのをやめることができない。