止まっているかのようだ、とずいぶん長い間感じていた。
「濃霧のため、当機はこれより着陸態勢に入ります。不時着となりますが、安全には問題ないことが確認されております。どうかご心配なさらずに、霧の旅をお楽しみください」
と、機長は朗らかにアナウンスした。
その後も窓の外は真っ白なままで、下降しているのかどうかもよくわからない。
着陸は、機体の振動でわかった。着陸してもまだ外は霧深いままだったからだ。
乗務員が笑顔で機体の外へ誘導する。相変わらず遠くの景色はよくわからない。
ショッキングピンクの大きな旗を持ち「ようこそ霧の島へ!」と大勢の島民が出迎えてくれた。
キョトンとしている私に、一人の島民が話しかけてくれた。
「霧の旅は初めてかい? ここはいいところだよ。見たくないものも、見たいものも、どうせたいして見えやしないんだから」
それでもやっぱり見たいって言うんなら。と言って、ピンクの旗を一振りした。
わずかの間見たものは、灰色の森と、ピンクの烏の群れだった。