2012年5月9日水曜日

蠍踊り

昔々、あるところに老夫婦がいた。
夫婦には子供がいなかったが、蠍を飼っていた。
老夫婦は、蠍に「人を絶対に刺してはいけないよ」とよくよく言って聞かせていた。
蠍は大変に聞き分けがよく、人を刺すような素振りは見せなかった。
だが、強力な毒があるからと言って、蠍は村人から忌み嫌われ、老夫婦も村で孤立してしまった。
ある日、蠍は村人たちにひどく難癖を付けられた。蠍はやり過ごそうとしたが、多くの人に囲まれてしまった。
ジリジリと追い詰められ、逃げ場のなくなった蠍は、身動きした弾みで、一人の足にブスリ。
その毒針を刺してしまった。
確かに、蠍の毒は強力だった。だが刺された当人は痛がるでも苦しむでもなく、楽しそうに笑い、踊り始めた。
あんまり愉快に踊るので、村人全員が踊りだした。蠍は幸せだった。いつまでも踊りが止むことはなかった。
その村では、今も「蠍踊りの村」として知られている。