2010年9月26日日曜日

押し出された話

夢の中で夢に押し出された。
「何故、出ていかなければならない? ここが誰の夢だと思っているんだ?」
背中をぐいぐい押されながら叫んだけれど、夢には届かない。
抵抗しても、ぐぐぐ、ぐぐぐ、と押し出される。
ふいに軽くなって、眠りから覚めたのかと思いきや、月の蓋を開けて街を見下ろしていたのだった。

2010年9月24日金曜日

はねとばされた話

夜道とはいえ、ずいぶん暗い道だ。吸い込まれそうに黒い道路を歩く。歩き慣れた道だが、こんな闇のような道だっただろうか。
そういえば、足元がふわふわする。アスファルトの感触ではないぞ、これは。
それに、なんだかずいぶん背が高くなった気分……なんて悠長なことは行っていられない! 空中だ。屋根の高さを歩いているのだ。では、歩いているこの道は、一体何だ?

そう思ったら、道がめくれあがってバチンと飛ばされた。
尻餅を付いて見上げたら、巨大なコウモリが月夜に羽ばたいていた。どうやらあのコウモリの上を歩いていたらしい。
もう少し空中散歩を楽しみたかった気もする。

超汗かきで超寒がりなわたくしめには、今年は七分袖の服を着る機会がない予感がします。
月曜日に風邪引き、火曜日に病院に行きました。
鼻水はどこからくるの?

2010年9月22日水曜日

突きとばされた話

ドシンと何かが背中に当たったと思ったら、そこは夜空だった。三日月が近くにあったので、慌ててしがみつくと、蓋が開いてお月さまの顔がひょっこり出てきた。
「助けてください」
「流星がまともに衝突したな?」
月から乗り出したお月さまに、ドシンと突きとばされた。そこはベッドの上だったから、その夜はそのまま眠った。
翌日、鏡で背中を見てみたら、赤い跡が四つ残っている。どちらが流星の手形で、どちらがお月さまの手形かは、わからない。

2010年9月20日月曜日

黒猫のしっぽを切った話

夜の散歩中、例によって流星が脇を掠めていった。
しばらく歩いていると、前方にさっきの流星が地面すれすれをゆっくり飛んでいるのが見える。
流星の奴、具合でも悪いのかと近づけば、黒猫のしっぽに絡まって動けなくなっていたのだった。
その姿があんまり可笑しいので笑ったら、流星にも黒猫にも怒られた。
流星をしっぽから外そうと試みるが、どうやっても取れない。
流星が「しっぽごと切れ!」という。驚いたことに黒猫も同意した。仕方ない、家に鋏を取りに帰ろう。

待ちかねていた流星と黒猫に鋏を見せて「本当に切るんだね?」と確認する。早くしろと流星がせがむので、パチンとしっぽを切ると、流星はしっぽを付けたまま疾走し、黒猫も身が軽くなったと言わんばかりに、ふわふわと空中を歩いて去っていった。

2010年9月17日金曜日

SOMETHING BLACK

黒いものが欲しい、とお月さまが言うので、黒いペンを渡したら「それは違う」と言う。
黒いサングラスを渡しても、黒い傘を渡しても、黒い靴を渡しても、「それもちょっと違う。悪くはないが」
結局、黒いブランケットを渡したら「これだ、これだ」と、喜んで頭から被り、町を歩き始めた。ついでに黒い靴を履いて、黒い傘をさして。
それは夜の町でも随分おかしな格好だったので、町行く人々は相当不審そうな顔でお月さまを見た。
家に帰り、カレンダーを見て、気がついた。今夜は新月だったのだ。

2010年9月15日水曜日

明日のデート

大切な指輪を失ってしまった。
飼い犬に訊いてみると「蟻が運んで行った」。
蟻の巣に「指輪を返して」と囁いた。
蟻は「甘い匂いがしたのに、食べられないから、捨てた。多分、蜘蛛が持っていったよ」。
町中の蜘蛛の巣を捜した。ようやく見つけたのはマツダさんの家の門扉だった。蜘蛛の巣に、指輪が輝いていた。
「蜘蛛、私の指輪を返して」
「代わりにこれよりも、もっと綺麗でもっとピカピカしたものをくれたら、返してやる」
私は恋人に相談した。「蜘蛛が指輪を返してくれないの」
「それじゃあ、もう一度蜘蛛に返してってお願いしにいこう」
というわけで、明日、私は恋人と手をつないでマツダさんちの門扉に行く。
ポケットにはビー玉と王冠とパチンコ玉。蜘蛛はどれを気に入るのかしら。
とても楽しみ。

2010年9月14日火曜日

IT'S NOTHING ELSE

夜道を歩く。両側はブロック塀で、アスファルトの道路には「止まれ」も書かれていないから、ただ歩く。街灯はない。
夜空を見上げる。月は出ていない。
ポケットの中の星が光るから、どうにか足元が見える。いくら歩いてもどこにも辿りつかない。
ただ星だけがあるから、歩き続ける。

新しいコンテンツを作りました。毎度の通り、ブログだけど。
瓢箪堂紙字引
自分のための資料です。

2010年9月10日金曜日

ある晩の出来事

星たちが眩しくて目が覚めた。
今夜はどうしても眠りたいのだ。黒い布を星たちの上に被せて、ベッドに戻る。

闇が怖いと、星たちが泣く。

2010年9月8日水曜日

月光鬼語

満月の夜、「月夜が見たい」と机の上の星たちが騒ぐので、網に入れて散歩に出た。
何故だか街灯がことごとく消えていたが、明るい満月と大喜びの星が目一杯に輝くので、足元に不安はなく、むしろ眩しく感じたくらいだ。
しばらく歩くと「鬼が来た」「鬼が来る」と星たちがひそひそ言い出した。
斯くして鬼が現れたのだが、自分と変わらぬくらいの背格好で背広を着た鬼だった。
恐ろしい姿ではなかったが、なんとなく星の入った網をセーターの中に隠しておいた。
「今晩は、よい月夜ですね」
と鬼は言った。街灯が震えあがるのがわかった。
「えぇ、いい月です」
鬼は何事もなく去ったが、結局、星をセーターに隠したまま家に帰った。
巨大な金平糖の角が腹に当たる。
鬼の角は、夜空に突き刺さるほど長く、剣のように鋭かった。

2010年9月5日日曜日

A CHILDREN`S SONG

真夜中のシーソーに男の子が一人。
「おやすみ お星さま、おやすみ お月さま チントン カントン テッテコプー」
へんてこな調子で歌っている。
もっとへんてこなことに、男の子は一人なのに、ギッタンバッコン、シーソーが動いているのだ。
近づいて見れば、男の子の向かいには金平糖が一つ。あまり光っていない。
「子供は寝る時間だ。おうちはどこだい?」
「あっち」
男の子の指差す先には、月があった。
おやおや、お月さまを探しに行かなくてはならないようだ。
男の子を肩車し、光り具合のよくない星をポケットに突っ込み、歩く。
「お月さま、やーい。チントン カントン テッテコプー」
二人でそう歌ったら、月の蓋が、開いた。

2010年9月3日金曜日

A PUZZLE

机の上に並べた星の順番が入れ替わっている。
左から拾った順に並べてあったはずなのに、大きい順になっていたり、意図のわからない並びになっていたりする。
それをお月さまにボヤいたら、「あぁ、それは『よくくっつく順』だ」という。
試しにくっつけてみたら、ピッタリ合わさって、金平糖が棍棒になってしまった。
今度お月さまに会ったら「星が外れない」とボヤかなくてはならない。

2010年9月1日水曜日

A MEMORY

朝起きると、机の上の金平糖が四つになっていた。
最初に拾った星。それからぶつかってきた流星。倉庫の影で見つけた星。もう1つは?
「夢の中で拾った星」
倉庫の影で見つけた星が面倒そうに呟いた。
まさか?
一生懸命に夢の記憶を辿ったけれど、缶切りを探していたことしか思い出せなかった。多分、桃の缶詰を食べたかったのだ。
そんな夢のいつどこで、星を拾ったのだろう。