真夜中である。不動明王は生き物の気配に声を荒げた。
「何奴!」
気配のする辺り目掛けて、降魔の剣を振り下ろす。焔が飛ぶ。
焔に包まれた気配の正体に不動明王はさらに大声で言った。
「なんと!そなたは千手観音殿の。右十九番目の御手ではあるまいか」
不動明王は恭しくそれを拾い上げ、羂索を丁寧に巻いた。
「いたいけなる御手なるかな。熱かったであろう、済まぬことをした」
以来、不動明王像が穏やかな容貌になったと評判になった。不動明王がいとおしそうに携える手首は、羂索に包まれて人々からは見えない。
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アトリエ超短編投稿作