近頃、テングザルの男が人気らしい。
テングザルのポスターを見掛けるし、テレビコマーシャルにもテングザルのタレントがよく出てくる。
テングザルに倣って鼻を大きくする輩も出てきた。整形というやつだ。
本人は喜んでいるようだが、特にヒトには似合わない。
近所に住むテングザルの青年は、恋人に鼻を撫でられて照れている。
最近テングザルっていうだけで人気でしょう?浮気しないか心配なの。
と彼女は拗ねて見せた。
ほほえましい光景ではないか、と私は少し萎んだ自分の鼻を撫でながら独りごちた。
【オナガザル科テングザル ボルネオ島 絶滅危惧種】
2006年3月28日火曜日
炙るなら炭で
スミュルナの娘は、祖母に火炙りにしてくれるわと脅された。
娘は猫を奪い取り「ババア! 炙るならこっちだ」と反撃した。
フキョウワオーンと猫が鳴く。
There was a Young Person of Smyrna,
Whose Grandmother threatened to burn her;
But she seized on the cat,
And said, 'Granny, burn that!
You incongruous Old Woman of Smyrna!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
娘は猫を奪い取り「ババア! 炙るならこっちだ」と反撃した。
フキョウワオーンと猫が鳴く。
There was a Young Person of Smyrna,
Whose Grandmother threatened to burn her;
But she seized on the cat,
And said, 'Granny, burn that!
You incongruous Old Woman of Smyrna!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月27日月曜日
耳年増な驢馬
マドラスの老いた男は、クリーム色のお馬鹿な驢馬の、玉のような臀に跨がる。
驢馬の長い耳が彼のトラウマを増長し、マドラスの男は逝ってしまった。
There was an Old Man of Madras,
Who rode on a creamーcolored Ass;
But the length of its ears
So promoted his fears,
That it killed that OldMan of Madras.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
驢馬の長い耳が彼のトラウマを増長し、マドラスの男は逝ってしまった。
There was an Old Man of Madras,
Who rode on a creamーcolored Ass;
But the length of its ears
So promoted his fears,
That it killed that OldMan of Madras.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月26日日曜日
気配りする鼻
このご老体の鼻は鳥の止まり木である。
夜の帳が降り、鳥たちが飛び立つと、ご老体とその鼻は、ようやく一息つくのである。
There was an Old Man on whose nose
Most birds of the air could repose;
But they all flew away
At the closing of day,
Which relieved that OldMan and his nose.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
夜の帳が降り、鳥たちが飛び立つと、ご老体とその鼻は、ようやく一息つくのである。
There was an Old Man on whose nose
Most birds of the air could repose;
But they all flew away
At the closing of day,
Which relieved that OldMan and his nose.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月23日木曜日
交渉
組んだ足の毛並がやけにいい。
兎はコーヒーを飲みながら言った。
「極めて難しい。だが、不可能ではない」
不可能ではない、と言った時に長い耳がぴくりと動くのを、私は見逃さなかった。
私は神妙な面持ちを作って「よろしくお願いします」と頭を下げた。
兎は今度こそ、耳を動かして
「コーヒーをもう一杯頂こう。ブラックで。うまいコーヒーを出す依頼人に弱いんだ、私は」
兎はコーヒーを飲みながら言った。
「極めて難しい。だが、不可能ではない」
不可能ではない、と言った時に長い耳がぴくりと動くのを、私は見逃さなかった。
私は神妙な面持ちを作って「よろしくお願いします」と頭を下げた。
兎は今度こそ、耳を動かして
「コーヒーをもう一杯頂こう。ブラックで。うまいコーヒーを出す依頼人に弱いんだ、私は」
2006年3月21日火曜日
ナイルに流れる爪
ネイルケアに念入りなナイルの爺さんは、やすりで親指を研ぎ続ける。
「やすりで研ぐとこんなに鋭くなるのだ」
とナイルの爺さんネイルのない手で語る。
There was an Old Man of the Nile,
Who sharpened his nails with a file,
Till he cut out his thumbs,
And said calmly, 'This comes
Of sharpening one's nails with a file!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
「やすりで研ぐとこんなに鋭くなるのだ」
とナイルの爺さんネイルのない手で語る。
There was an Old Man of the Nile,
Who sharpened his nails with a file,
Till he cut out his thumbs,
And said calmly, 'This comes
Of sharpening one's nails with a file!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月19日日曜日
当然のトゲ
愚行を極める年寄りの婦人が
ヒイラギに腰掛け、トゲに引っ掛け、ドレスを引き千切った。
急転、彼女は落胆する。
There was an Old Lady whose folly,
Induced her to sit on a holly;
Whereon by a thorn,
Her dress being torn,
She quickly became melancholy.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
ヒイラギに腰掛け、トゲに引っ掛け、ドレスを引き千切った。
急転、彼女は落胆する。
There was an Old Lady whose folly,
Induced her to sit on a holly;
Whereon by a thorn,
Her dress being torn,
She quickly became melancholy.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月18日土曜日
モノクロームはレモン
「カメレオンみたい、このカメラ」
と、マモルは言った。マコトは首を傾げる。
マコトは父から譲り受けた古いカメラを持ち歩いている。フィルムは自動巻きではないし、ピントも合わせなければならない。いつのまにか現像も自分でやるようになった。手間はかかるが、その手間がマコトには面白い。
ほとんどの被写体はマモルだ。街中で撮ることもあるが、裸になってもらうことも多い。マモルは自身の全裸姿の写真を何のためらいもなくめくりながら、カメレオンみたい、と言っている。
「カメラがカメレオン?ダジャレか?」
マコトが問う。
「カメレオン。マコトのカメラで撮った、わたしの身体。一枚づつ色が違う。だからカメレオン」
マコトの撮った写真は、モノクロだ。
「これは、赤い。これは、青い。これは緑だし、これは黄色」
「ぼくには、わからないよ」
「鈍感だなあ。自分で撮ったくせに、わからないの?」
じゃあ今から撮ってよ、とマモルは言いながら服を脱ぐ。裸になったマモルは、カメラを向けるとスッと近付いてきてレンズをぺろりと舐めた。
「撮って」
ぺろり・カシャリ、またぺろり・カシャリ。
「なんで、舐めるの?」
「レンズってすっぱいんだね。すっぱくて、おいしい」
ファインダーを覗くマコトの視界いっぱいに、マモルの舌が素早くうごめいて去っていく。
出来上がった写真の中のマモルの肢体には、淡い色の靄がかかっていた。これは桜色、こっちは山吹色、それは菫色……。
「ほらね、わたしの言った通りでしょう?」
「舐めたから、色が出たのか?」
「さあ、どうかな。すっぱいレンズ、おいしかったし」
「マモル」
「なに?」
「舐めて」
マモルは笑いながら、あかんべえをした。
++++++++++++
千文字世界「禁断の果実」投稿作
と、マモルは言った。マコトは首を傾げる。
マコトは父から譲り受けた古いカメラを持ち歩いている。フィルムは自動巻きではないし、ピントも合わせなければならない。いつのまにか現像も自分でやるようになった。手間はかかるが、その手間がマコトには面白い。
ほとんどの被写体はマモルだ。街中で撮ることもあるが、裸になってもらうことも多い。マモルは自身の全裸姿の写真を何のためらいもなくめくりながら、カメレオンみたい、と言っている。
「カメラがカメレオン?ダジャレか?」
マコトが問う。
「カメレオン。マコトのカメラで撮った、わたしの身体。一枚づつ色が違う。だからカメレオン」
マコトの撮った写真は、モノクロだ。
「これは、赤い。これは、青い。これは緑だし、これは黄色」
「ぼくには、わからないよ」
「鈍感だなあ。自分で撮ったくせに、わからないの?」
じゃあ今から撮ってよ、とマモルは言いながら服を脱ぐ。裸になったマモルは、カメラを向けるとスッと近付いてきてレンズをぺろりと舐めた。
「撮って」
ぺろり・カシャリ、またぺろり・カシャリ。
「なんで、舐めるの?」
「レンズってすっぱいんだね。すっぱくて、おいしい」
ファインダーを覗くマコトの視界いっぱいに、マモルの舌が素早くうごめいて去っていく。
出来上がった写真の中のマモルの肢体には、淡い色の靄がかかっていた。これは桜色、こっちは山吹色、それは菫色……。
「ほらね、わたしの言った通りでしょう?」
「舐めたから、色が出たのか?」
「さあ、どうかな。すっぱいレンズ、おいしかったし」
「マモル」
「なに?」
「舐めて」
マモルは笑いながら、あかんべえをした。
++++++++++++
千文字世界「禁断の果実」投稿作
砂漠で眼玉を拾いました。
砂漠で眼玉を拾いました。右眼を外して(ちょっと厄介だったけれど)拾った眼玉を入れました。
新しい右眼は、とてもよく見えた。
シャボン玉を吐き出して走る汽車とか、膨らみ続けて破裂したペンギンが見えました。
僕はあちこち飛んで見てまわることにしました。頭にプロペラを載せてね。
右眼は、もっと素敵なものを見たがっていたんだもの。
放射能に汚染された牛や、くしゃみする入れ歯は親切でした。
ムンクはいつでも叫んでいるし、鳥の羽の木は温かい。
「なかなか見物だった」
「きみのおかげさ」
そんなこんなで、右眼は砂漠に帰っていきました。僕は公園の石像になりました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
佐々木マキ「輕氣劇、砂漠の眼玉」1970年をモチーフに
新しい右眼は、とてもよく見えた。
シャボン玉を吐き出して走る汽車とか、膨らみ続けて破裂したペンギンが見えました。
僕はあちこち飛んで見てまわることにしました。頭にプロペラを載せてね。
右眼は、もっと素敵なものを見たがっていたんだもの。
放射能に汚染された牛や、くしゃみする入れ歯は親切でした。
ムンクはいつでも叫んでいるし、鳥の羽の木は温かい。
「なかなか見物だった」
「きみのおかげさ」
そんなこんなで、右眼は砂漠に帰っていきました。僕は公園の石像になりました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
佐々木マキ「輕氣劇、砂漠の眼玉」1970年をモチーフに
2006年3月15日水曜日
快適な髭
髭が自慢の男が叫ぶ。
「なんたる悲劇だ。夜更かし中年と早起き熟女、悪戯小僧が四人と若い娘、みんなおれの髭の中に居座っちまった」
There was an Old Man with a beard,
Who said, 'It is just as I feared!
Two Owls and a Hen,
Four Larks and a Wren,
Have all built their nests in my beard!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
「なんたる悲劇だ。夜更かし中年と早起き熟女、悪戯小僧が四人と若い娘、みんなおれの髭の中に居座っちまった」
There was an Old Man with a beard,
Who said, 'It is just as I feared!
Two Owls and a Hen,
Four Larks and a Wren,
Have all built their nests in my beard!'
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
2006年3月14日火曜日
禁断の果実
チリに住むこの爺さんの愚かな行いには、まったくうんざりだ。
階段に座り込んでまで、林檎チャンやら梨子チャンにむしゃぶりつく。
どこまで往生際が悪いのだ、このチリの爺さんは。
There was an Old Man of Chili,
Whose conduct was painful and silly,
He sate on the stairs,
Eating apples and pears,
That imprudent Old Person of Chili.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫
階段に座り込んでまで、林檎チャンやら梨子チャンにむしゃぶりつく。
どこまで往生際が悪いのだ、このチリの爺さんは。
There was an Old Man of Chili,
Whose conduct was painful and silly,
He sate on the stairs,
Eating apples and pears,
That imprudent Old Person of Chili.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫
2006年3月12日日曜日
2006年3月9日木曜日
ゴキブリの断末魔
ケベックの老人の首すじに、ゴキブリがご機嫌伺い。
だが、老人は「串刺しの刑を執行する!」
ケベックの老人は語気が荒い。
There was an Old Man of Quebec,—
A beetle ran over his neck;
But he cried, "With a needle I'll slay you, O beadle!"
That angry Old Man of Quebec.
だが、老人は「串刺しの刑を執行する!」
ケベックの老人は語気が荒い。
There was an Old Man of Quebec,—
A beetle ran over his neck;
But he cried, "With a needle I'll slay you, O beadle!"
That angry Old Man of Quebec.
2006年3月7日火曜日
2006年3月6日月曜日
2006年3月5日日曜日
2006年3月4日土曜日
満足なクジラ
ウェールズの娘が鱗のない巨大魚を捕まえた。
獲物にウインク、「九時だ!」と叫び、潮を吹いたウェールズの娘。
There was a young lady of Wales,
Who caught a large Fish without scales;
When she lifted her hook,
She exclaimed,"Only look!"
That ecstatic Young Lady of Wales.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫
獲物にウインク、「九時だ!」と叫び、潮を吹いたウェールズの娘。
There was a young lady of Wales,
Who caught a large Fish without scales;
When she lifted her hook,
She exclaimed,"Only look!"
That ecstatic Young Lady of Wales.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫
2006年3月3日金曜日
短くなった舌
熱帯にお住まいの鰐口長舌のじいさんは、山盛り魚を皿ごと一気に飲み込んだ。
長い舌もついでに飲み込み、咽喉を詰まらせた熱帯のじいさん。
There was an Old Man of the South,
Who had an immoderate mouth;
But in swallowing a dish,
That was quite full of fish,
He was choked, that Old Man of the South.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
長い舌もついでに飲み込み、咽喉を詰まらせた熱帯のじいさん。
There was an Old Man of the South,
Who had an immoderate mouth;
But in swallowing a dish,
That was quite full of fish,
He was choked, that Old Man of the South.
エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より
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